「Bizひかりクラウド」のメニューとしてBCP向けのサービスを提供すると言うが、具体的には。

 Bizひかりクラウドは元々計画していたもので、この時期にスタートしたことは、基本的に震災とは関係ない。実際、震災前はユーザーからBCPという声はほとんどなかった。ただ、我々の考えてきたクラウドは、今のBCP見直しニーズにちょうど当てはまる。

 例えば「リモートデータバックアップ」で、ユーザーの拠点からリモートのデータセンターにデータをバックアップできる。ほかに、複数のデータセンターを結んで、仮想的に一つとして提供する「マルチロケーションハウジング」も提供する。ユーザーの要望次第だが、データの設置場所まで含めて分散型のネットワークを作れる。

クラウド、あるいはデータセンターでは競合する事業者が数多くある。

大竹 伸一(おおたけ・しんいち)氏
写真:太田 未来子

 確かに多い。今は第3次くらいのデータセンター設立ラッシュだろう。ただ、例えばNTTグループ内で言えば、大口案件はNTTデータやNTTコミュニケーションズが取る。我々は、それとは規模や地域などが異なる企業を中心に考えている。

 NTTグループ以外の事業者との比較では、ネットワークとクラウドを合わせたトータルな品質管理ができることが最大の強み。例えば取り組みの一つとして、快適なクラウド利用環境を実現するために、レスポンスやサーバー性能の事前調査、導入後の比較調査などを含めたクラウド診断を実施する。

 もう一つ挙げられるキーワードが「地域密着」。教育、医療分野など、いわゆるBtoBtoCの分野でもクラウドを積極的に展開する。消費者1人(1ID)当たり月額500円程度のコストで利用できる「ワンコインクラウド」がそれで、既に実績が出てきている。

 これらを合わせたクラウド事業を、2015年には売上高で1000億円規模まで成長させたいと考えている。定額で固定通信インフラを提供しているだけでは成長を望めない、今の我々の課題を、こうした取り組みによってクリアしていく。

2011年3月期の決算は、大幅な増益となったが。

 増益基調になっているのは、フレッツ光を中心とするIP系収入が増え、アナログ音声などレガシー系の減少傾向が落ち着いてきたためだ。

 ただ、そのままインフラを売っているだけでは、何年か先には売るものがなくなる。しかも、スマートフォンの台頭で、顧客の固定離れも進んできている。だから、上位レイヤーのサービスを積極的に展開する。

コンシューマー向けはどうか。

大竹 伸一(おおたけ・しんいち)氏
写真:太田 未来子

 肝は「フレッツひかりWi-Fi」と「家デジ」だ。スマートフォンやタブレット端末など、無線LAN(Wi-Fi)対応の端末を使った家の中からの通信をフレッツ光に取り込む。同時に、家デジでARPU(加入者1人当たりの月間売上高)を上げていく。現状でも既にARPUは毎年増えているが、もっとメニューを充実させて積み上げを狙う。

 家デジは例えばネット環境のセットアップサービスなどに対応する「アシスト」、動画や写真を共有できる「コミュニケーション」などがある。よく似たサービスは他社も提供しているし、いまどき万人受けするサービスは難しい。だから家デジは多様なサービスを少しずつ売るモデルで成長させていく。それぞれのメニューを10万~20万人ずつくらい使ってもらって、それをいくつも積み上げていけばいい。

NTT西日本 代表取締役社長
大竹 伸一(おおたけ・しんいち)氏
1948年生まれ。愛知県出身。京都大学工学部電気工学科卒。1971年、日本電信電話公社(現NTT)入社。2000年、NTT理事 第二部門長。2002年6月、NTTエムイー東京社長に就任。2004年6月、NTT西日本常務取締役ソリューション営業本部長。その後、戦略プロジェクト推進本部長を経て、2008年6月、代表取締役社長(現職)。

(聞き手は、河井 保博=日経コミュニケーション,取材日:2011年5月19日)