米シーメンスPLMソフトウェア日本法人(シーメンスインダストリーソフトウェア)が2011年6月から提供開始した「Solid Edge DesignPad」は、中堅中小企業向け3次元CAD「Solid Edge」のレンタル版。注目すべきはその価格で、1年当たり12万円と、物販のSolid Edgeの年間保守料相当で使える料金設定となっている。同社マーケティング本部の庄司良本部長に、新サービス開発の経緯や狙いなどを聞いた。

(聞き手は井上 健太郎=ITpro

写真●米シーメンスPLMソフトウェア日本法人のマーケティング本部本部長である庄司良氏
写真●米シーメンスPLMソフトウェア日本法人のマーケティング本部本部長である庄司良氏

今回のレンタルサービスを企画した背景は。

 国内の3次元CAD市場のピークは2002~2003年で、今はその6割くらいの市場規模になってしまっている。2次元CADから移行する潜在需要が続くはずと考えていたが、移行しないままのユーザーが意外に多いことが分かってきた。

 そこでSolid Edgeの販促を担当するVelocity営業本部の森田勉本部長が、2010年から市場の再定義に着手し、成長市場を探した。そして、2008年秋のリーマンショック後にホームオフィスでフリーランスの技術者が増えていることと、大企業内で数ユーザーのワークグループが使う需要があることに着目した。

 大企業では、3次元CADはトップダウンで製品を統一するのが原則だが、ガバナンスをきっちりと利かせている企業は実はそう多くはないようだ。業務のピーク時に、現場予算で導入して使うニーズもありそうだと見ている。

レンタル料金はすんなり決められたのか。

 月当たり1万円にするか2万円にするかはずいぶん考えた。既に低価格帯のCADはベンダー各社で100万円前後まで下がっており、サブセット版では50万円のものもある。そこで4年間で50万円前後となることを目安に1万円と決めた。

 契約は年単位になっているが、3カ月単位くらいまで本当は細かくしたいと思っている。しかし今回のサービスは使い始めてもらうまでに時間がかかるので、3カ月で契約した人が損をした気持ちになるだろうと見送った。

日本法人独自の今回のサービスに対して、海外拠点からの反応は。

 アジア・パシフィックのマネジャーに「日本の製造業の拠点は中国などに移っているので、需要が飽和している」と説明したら「ゲームチェンジはやりなさい」と理解してもらえた。シーメンスPLMソフトウェアの製品は世界的には販売が伸びているが、けん引しているのはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)市場で、3次元CADの飽和感は欧米市場もほぼ同じだと思う。とはいえ、これでトータルな売り上げが減ったらまずいことになるが、違う市場を開拓できると思っている。

国内代理店に伝えたときの反応は。

 驚かれた。大手ユーザー対応の代理店は様子見だ。中堅中小向けチャネルからは前向きな反応があり、特に兵庫県にある代理店、インターメッシュジャパンとは2010年の春ごろからアフターサポートがどれだけ必要なのかなどについて話し合ってきた。

 その結果、大半のユーザーはオンラインチュートリアルだけで、使えるようになるだろうという結論になった。それでも、疑問が生じたり、製品の不具合が見つかったりするケースを想定して、フェイスブックのファンページで操作方法のQ&Aのページも作っている。

 どうしでもサポートが必要な場合は代理店が有償でサポートする。バージョンアップは利用料金内に含まれる。

営業や具体的な手続きはどのようになるのか。

 対人営業はしない。形態は代理店販売となっており、当社のWebで申し込んでもらうと、代理店にその情報を伝え、利用料金の徴収は代理店にやってもらう。ライセンスはノードロックで、特定のパソコンでしか使えない形になる。

このサービスは長期的にはどうなっていくのか。

 今回のサービスは、クラウド化へのステップだ。次のステップでは、申し込みから決済、利用開始までオンラインで済むようにしたい。その次のステップが仮想デスクトップなどによるクラウドサービスになるだろう。4~5年後にはそうなると思う。ただしそれには、輸出規制(ワッセナー協約)や課金の仕組みをどうするかといった問題を解決しなければならない。

 クラウドサービスになる頃には、データの管理をどうするかがもっと大きな問題になる。メーカーが保有する製品データはデジタルカメラの場合で2002年に1.8テラバイト(TB)だったのが2005年には20TBになり、2008年には200T~300TBになったといわれている。

 そうした製品データを統合的に管理するニーズは着実に強まっていくだろう。企画が実際に製品になる確率は3000分の1だといわれており、シミュレーション技術などを駆使しながらいらないアイデアを早期に除外するプロセスを確立していくうえでも、製品データ管理の仕組みは見直されていくはずだ。

 製品の3次元設計図にひも付けされたアイコンをクリックするだけで、性能データや、各種検証データなどを簡単に参照できるような統合された情報基盤を実現していくことが、当社の重要な製品戦略になっている。CADのクラウド化などと平行してこうした情報基盤作りをユーザーに働きかけていく。