大手セキュリティベンダーであるロシアのKaspersky Lab(カスペルスキー研究所)は、東日本大震災の被災地向けに放射線検知器「ガイガーカウンター」を5000台も寄贈するというユニークな支援策を実施している。同社CEOのユージン・カスペルスキー氏に寄贈を決めた背景や、4月から本格参入しているAndroid向けセキュリティソフト分野の状況などについて話を聞いた。

(聞き手は斉藤 栄太郎=ITpro

なぜガイガーカウンターを大量に寄贈しようと考えたのか。

ロシアKaspersky Lab(カスペルスキー研究所)CEOのユージン・カスペルスキー氏
ロシアKaspersky Lab(カスペルスキー研究所)CEOのユージン・カスペルスキー氏

 福島第一原発の事故を見て、私の出身国(ロシア)を含む旧ソ連でかつて起こったチェルノブイリ原発事故のことをすぐに思い浮かべたからだ。チェルノブイリの事故が起こったのはほんの25年前(1986年)のこと。まだ昨日のできごとのように記憶に新しい。

 放射線は目に見えないし、においもしない。こうした人間の五感で感じられないものに対しては、「そもそもどれくらいの量でどのくらいの影響があるのか」が分からないと何もできない。数値が高い場所(ホットスポット)であるということを知らないでそこに長時間とどまってしまう危険性もあるし、逆に数値が十分低いのに必要以上におびえてしまう可能性もある。

 こうした状況を打破するのに必要な機器がガイガーカウンターであり、これこそが福島第一原発に近い被災地の人々にとって何よりもまず必要な支援物資の一つであると考えた。それ以外の支援物資、例えば飲み物や食べ物はもちろん必要だが、それらは海外にいる我々が提供しなくても国内でまかなえる。海外の企業が提供できる最も有効な物質的支援策は何かを考えて、ガイガーカウンターを送ることに決めた。

「5000」という数に決めた理由は?これほど大量の台数をどうやって調達したのか。

 5000台という数にしたのは、現実問題として震災後数カ月以内に調達できる最大の台数がこの数だったという事情による。実際、5000台ものガイガーカウンターを調達するのはかなり大変だった。ロシアおよびベラルーシにある工場と契約を結んでいるが、震災前はせいぜい月に数十台作る程度という製品だったため一気に5000台などとても生産できない。月に数百台という単位で製造され、順次日本に送られてくる。

 放射性物質の広範な拡散状況を見ると、もっと台数が必要ではという意見もあるだろう。だが、半年か1年かは分からないが、いずれは国内でもガイガーカウンターが容易かつ大量に入手可能になるはずだ。少なくともそれまでの期間、先行して送ることで被災地の人の助けになればと思っている。