顧客視点なら全体最適になる

顧客視点に立つからこそ、顧客の接点である部門ごとに最適化されてきた、といった反論も聞こえてきそうですが。

 それは、部門ごとに顧客層が全く違うと考えるからです。ところが現実の顧客は、例えばオーナー経営者であれば、個人部門と法人部門の両方にとっての顧客です。つまり、その顧客についての情報を共有化できるシステムが必要です。ですから縦割りの壁を破って、全体最適のシステムを構築できないといけません。情報を共有化すれば、システムの構築コストも下がるわけです。

全体の最適化により、効率化と顧客満足の両立が図れるというわけですね。

細谷 英二氏
写真:陶山 勉

 もちろん、システムだけでカバ ーできるわけではありません。顧客は経営課題や生活設計についても、本当に信頼できる人、金融知力の豊かな人に相談したいと考えています。ITでもある程度はカバ ーできますが、しょせん情報や知識にすぎません。それをうまく活用し顧客の課題に応えるのは、結局人なのです。

 これからのサービスには満足を超えた感動が必要です。顧客はホスピタリティ(おもてなしの心)に感動する。ですから、バーチャルなネットワークがどんどん進展するとはいえ、そこに競争力を求めても限界があります。やはりリアルな関係のなかにサービス業の成長の鍵がある。人材こそが競争力の最後の源泉だと考えています。

まさに、人とITが経営の両輪であるわけですね。その両輪はうまく回っていますか。

 まだまだ課題は山積しています。りそなの場合、リストラの後に若手を育てているので、時間との競争でもあります。ただ、ようやく学習する組織風土が定着してきました。

 ITについても少ない投資額ですが、日本の金融機関のトップクラスには何とか付いていけるようになりました。最近は、営業店の端末で先進的な挑戦も始めました。営業の現場から様々な情報を発信して、日本の金融サービスも21世紀型に変わりつつあることをアピールし続けたいと思っています。

営業店での先進的な挑戦や21世紀型のサービスとは、具体的にはどのようなものですか。

細谷 英二氏
写真:陶山 勉

 東京ミッドタウンに出店し、いち早く指静脈認証を導入した事例があります。貸金庫も指静脈認証を採用しました。それがクチコミで広がり、顧客が別の顧客を次々に紹介してくれました。当初、幹部の間では「新店舗の黒字化は無理」と否定的な意見が多かったのです。でも若手が「ぜひ提案させてほしい」と談判してきました。その若手には「では、君が支店長になって全責任を持て」と言ったのですが、3年半で黒字化できました。

 実は、あの営業店の顧客は現役世代の富裕層が多いのです。そういう顧客のために、夕刻の遅い時間や土曜日にも営業したり、最先端のセキュリティを提供したりすることで、富裕層同士のネットワ ークのなかで評判が広がっていったわけです。

自前に戻すことはあり得ない

NTTデータや日本IBMとのアウトソーシング契約を更新しましたが、アウトソーシングの所期の目的は達成できましたか。

 両社にはうまく連携してもらっており、良好な関係が堅持できています。一方で競争原理も働いて、両社から新しい提案も出てきています。システム統合時にアウトソ ーシングした戦略は間違いなかったと思いますよ。

今回の契約のタイミングで、システムを自前に戻すといった選択肢はあり得ませんでしたか。

細谷 英二氏
写真:陶山 勉

 全くありません。我々があらゆる分野で自前主義を採るのは限界があります。自前主義というのはその分だけリスクを抱えますし、変化への対応力や柔軟性がどうしても下がってしまいます。

顧客ニーズに即応するためには、自前でシステムを持っていなければ駄目だという意見もありますが。

 それは、既得権益を持つ人の発想じゃないですか。臨機応変に対応できないというのは、自前かどうかではなく日本企業の構造的問題です。上意下達のピラミッド型組織がいかに弱いかということです。フラットな組織にして、現場の情報がリアルタイムに経営トップに上がるようにすれば、どんなことにでも臨機応変に対応できるはずです。

りそなホールディングス 取締役兼代表執行役会長
細谷 英二(ほそや・えいじ)氏
1968年3月に東京大学法学部卒業。同年4月に日本国有鉄道入社、87年4月に東日本旅客鉄道 総合企画本部投資計画部長、93年6月に取締役、96年6月に常務取締役、2000年6月に代表取締役副社長 事業創造本部長。03年6月、りそな銀行 取締役兼代表執行役会長、りそなホールディングス 取締役兼代表執行役会長(現職)に就任。09年6月、りそな銀行 取締役会長(現職)に就任。1945年2月生まれの66歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)