細谷 英二氏
写真:陶山 勉

 公的資金8135億円を3月に返済した、りそなホールディングスは、国の持ち株比率が27%にまで低下し、経営の自由度が大きく広がった。2003年にJR東日本から同社の会長に就任し、再建と社内改革に取り組んできた細谷英二氏に、今後の成長へ向けてのビジョンと戦略、そしてIT投資について聞いた。目指すは「21世紀型の金融サービス」である。

経営の自由度が広がるなかで、成長戦略としてどのようなことをお考えですか。

 成長戦略とは顧客とともに進化することだと思っています。その戦略の一つめの柱は、アジア市場の内需化です。中小企業もアジア進出を始めていますので、そうした動きに対する支援体制を強化したいと考えています。

 二つめの柱は、顧客主導型のサ ービスを提供していくことです。供給サイド主導のサービス提供は過去のものであって、顧客ニーズに応えていくビジネスモデルを構築する必要があります。三つめの柱は、信託もワンストップでやれる強みがありますので、経営資源を信託にシフトすることです。特に遺言信託や年金信託には強みを持っており、高齢化社会に向け、それらを生かしていきます。

IT投資については、どのような方針ですか。

 りそなの再生を図るなかで、IT投資については基本的な経営インフラとして推進してきました。そのポイントは、顧客のストレスを解消するために投資するということです。

 顧客の不満は、店頭で待たされるとか、相変わらず書類を書いて印鑑を押さなければいけないとか、言うなれば20世紀型の古いビジネスがいまだに横行していることです。銀行はお金をかけてITインフラを整備していながら、有効に使っているとは言えなかったのです。

 りそなは「真のリテールバンクの確立」を目標にしています。リテールとは小売りのことですから、顧客接点サービス業であると考え、接点におけるサービスの品質向上を図る必要があります。もちろん、銀行全体のローコスト化を実現できてこそ、サービス改善に向けた投資ができます。そこで、りそなは常にオペレーション改革で最先端の挑戦を続けています。

 ですから、クラウドが注目され始めたとき、いち早く銀行に応用できないか、システム部門の人たちにしつこく質問したのですよ。そんな経緯から、最近システム部門がITベンダーに逆提案する形で、クラウドを導入しました。

使った分だけベンダーに料金を支払う従量制課金のプライベートクラウドですね。新たなクラウド活用事例として日経コンピュータでも記事にしました。

 ええ、そういう新たな挑戦ができているのです。国内市場が収縮していくなか、りそなの次の飛躍として徹底的にサービスの質、経営の質を追求しています。システム面での挑戦も含め、質の競争では絶対に勝つ銀行グループを作りたいと思っています。

全体の効率化と同時に、顧客の多様なニーズに応えるのは困難ではないですか。実現できている企業はほとんどありません。

細谷 英二氏
写真:陶山 勉

 それについては、システム化の問題としてとらえています。どういうことかと言うと、日本企業はオペレーションそのものをシステム化しようとするのです。これでは企業全体ではなく、部門別の最適化になってしまいます。

 こうなるのは、日本企業の経営者にコンセプトを作る力が不足しているからです。あまりに現場主義のため垂直統合でシステム化するのは得意なのですが、モジュール化して水平分業で組み立てるという発想が弱いのです。

 言い換えれば、供給サイドの発想で考えるから部門別のシステム化になるのです。逆に、顧客のニ ーズを中心に発想すると、企業全体の最適化を考えないといけなくなります。全体のローコスト化を推進するなかで、良いサービスを提供していくことが大事です。

りそなホールディングス 取締役兼代表執行役会長
細谷 英二(ほそや・えいじ)氏
1968年3月に東京大学法学部卒業。同年4月に日本国有鉄道入社、87年4月に東日本旅客鉄道 総合企画本部投資計画部長、93年6月に取締役、96年6月に常務取締役、2000年6月に代表取締役副社長 事業創造本部長。03年6月、りそな銀行 取締役兼代表執行役会長、りそなホールディングス 取締役兼代表執行役会長(現職)に就任。09年6月、りそな銀行 取締役会長(現職)に就任。1945年2月生まれの66歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)