米クアルコムは2011年6月1日に、モバイル機器向けのCPU「Snapdragon」を米マイクロソフトの次期Windows「Windows 8」に対応させると発表した。デュアルコアのチップセット「MSM8960」を今月中にサンプル出荷するのを皮切りに、2012年早々にはクアッドコアの「APQ8064」をサンプル出荷する。同社の半導体部門Qualcomm CDMA Technologiesの製品管理担当副社長を務めるラージ・タルーリ氏に、今後の端末市場の展望と同社の戦略を聞いた。

(聞き手は菊池 隆裕=日経コミュニケーション


米クアルコム半導体部門(Qualcomm CDMA Technologies)製品管理担当副社長のラージ・タルーリ氏
米クアルコム半導体部門(Qualcomm CDMA Technologies)製品管理担当副社長のラージ・タルーリ氏
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6月1日にマイクロソフトの次期Windows「Windows 8」をサポートすることを発表した。これまでは携帯電話端末に軸足を置いていたが、応用範囲を広げたように見える。

 我々の基本的な戦略は、複数のOSをサポートすることだ。このところ大きなシェアを持つようになった米グーグルのAndorid、米ヒューレット・パッカード(HP)のWeb OS、カナダのリサーチインモーションのBlackBerry OSもサポートする。マイクロソフトのWindows Phone 7については、唯一サポートしているチップセットになる。ほかのチップセットはまだサポートしていない。

 マイクロソフトは、次期Windowsで従来のx86アーキテクチャに基づくCPUだけでなく、ARMアーキテクチャのCPUもサポートすることを発表した。これはとても大きな発表で、我々も興奮している。なぜなら、ARMアーキテクチャに基づくSnapdragonも使われると期待できるからだ。6月上旬に開催された「COMPUTEX TAIPEI 2011」では、Snapdragonの上で動く次期Windows上で、1080pのHDTV映像を再生してみせた。

Windows 8に対応するSnapdragonが狙うのはモバイル市場だけか。

 次期Windowsは、パソコンのような形状だけでなく、タブレットやクラムシェル(折りたたみ)型の端末など、様々な形状のものに載るという。我々としては、形状の区別なく使ってもらえる。顧客である端末メーカー次第ということになる。

競合他社との違いはどこか。

 最も大きな違いは、米インテルのように自らCPUを設計している点である。英ARMからCPUをライセンスしている企業もあるが、我々は命令セットのライセンスを受けているがCPUそのものを設計している。これにより、能力が高く、消費電力が小さいCPUを実現できる。

 次期Windowsは、いつでもどこでもネットワークに「つながる」体験を重視している。低消費電力で高い能力を備えるSnapdragonが生きるだろう。

 第2の違いは、多くの無線技術を持っていること。通信モデムだけでなく、無線LANやBluetoothなどだ。

 第3の違いが、GPUも自社で設計していること。映像をたくさん扱うようになっているときに重要になる。

これらチップセットの構成要素のうち、今後どの要素が重要になりそうか。

 製品によって異なる。ゲーム機ならGPU、モバイル端末なら全体の消費電力、ハイパフォーマンスのコンピュータではCPUが重要だ。半導体メーカーとしては、すべてを持つことが大事だと考えている。ニッチ市場ならどれか一つでもいいかもしれないが、主流にはならない。

 我々としては、共通の技術を使うものの、セグメントごとに複数のチップセットを用意する。例えば、タブレット端末のなかには、モデム機能が必要ないものもある。

 ユーザーの視点から見れば、「もっとパーソナルに、もっと長い時間使える」と言えるだろう。選択肢は広がり、消費電力は小さくなる。

今回のE3(Electronic Entertainment Expo)では、「クラウドゲーム」と呼ばれるサーバー集約型のゲームの存在感が増したように見える。クラウドゲームが主流になれば、端末には高い性能を求めなくなるのではないか。

 確かに、クラウドゲームと言われるようなセグメントはできるだろう。一方で、ユーザーの手元の端末上で動くゲームも多数残る。通信を前提にすれば、上り下りのデータのやり取りが増えて端末上での処理は複雑になる。帯域も必要になるだろう。特定のゲームは、サーバー集約になるのかもしれないが、高精細な映像を扱うゲーム向けには高性能のチップセットが必要になるだろう。

 クアルコムとしては、CPU/GPU、モデムの両方の要素を持っているので、いずれの要求にも対応できる。

さらに、ゲーム機周りでは任天堂の「Wii」やソニー・コンピュータエンタテインメントの「Move」、マイクロソフトの「Kinect」など、入力インタフェースが進化している。これは、端末側にはどのような変化や要求をもらたすのか。

 ジェスチャーやオブジェクトの認識には、DSPが担う信号処理能力を必要とする。CPUのコンピューティング処理ではない。Snapdragonは、モデム処理用に高性能のDSPを備えているので、それをアプリにも転用できる。