自粛ムードと復興税構想をやめ、「複合連鎖危機」から脱却を

 大震災後は東日本を中心に自粛ムードが広がっている。個人消費が落ち込んで日本経済全体が下向けば、被災地の復興支援もおぼつかない。デジタルマーケティングの基盤ともなる消費を落ち込ませない処方箋はあるのだろうか。慶応義塾大学の竹中平蔵教授に話を聞いた。

東日本大震災は、今後の個人消費などに対して、どのような影響を与えるとお考えですか。

 日本経済、そして個人消費が今後どうなっていくのかを考える上で、まず重要なのは現状認識をきちんとすることだと思います。電力不足、農業被害、サプライチェーン崩壊といった、いくつかの問題が連鎖的にまた複合的に起こっている。つまり、「複合連鎖危機」と言える状況だという認識を持つことが必要でしょう。

 だから、個別案件に対する答えが、必ずしも全体を俯瞰(ふかん)したときに正しい答えとは限らない。まさに合成の誤謬(ごびゅう)であって、良かれと思ってやっているのに全体にとっては、むしろ悪い結果すら招きかねないのが今の状況なのです。

どのような合成の誤謬が起こっているのでしょうか。

竹中 平蔵(たけなか・へいぞう)氏
撮影:清水 盟貴

 「自粛」ムードはその最たる例かもしれません。被災地に配慮し、良かれと思って自粛しても、それによって個人消費などが落ち込んで、日本経済全体が下向けば、ひいては被災地の復興支援にはつながらないのです。

 もう1つの例が「復興税」構想でしょう。内閣府の試算によれば、2011年度の実質国内総生産(GDP)は、今回の震災によって0.2~0.5%押し下げられるとのこと。電力障害の影響を織り込まなくともこれくらいのダメージがあるということです。

 復興支援はもちろん大切ですが、経済成長が鈍化するときに増税するなど、経済の原則から考えればあり得ないのです。複合連鎖危機とはいっても、原則から逸脱しては全てがおかしくなってしまう。

 消費について言えば、復興関連のものが向こう3~5年間に起こってくるでしょう。住宅や道路といった震災による直接的な被害額は、1995年の阪神大震災のときが10兆円。このときに復興関連消費が3年ほど続きました。

 今回の震災における被害額は16兆~25兆円になるとの試算が内閣府から公表されています。だから3~5年ほどは復興関連消費が起こると考えられます。

復興特需のようなものですか。

 ただこれは特需であって、需要のシフトが起こるにすぎない。その結果、消費が減退する分野も当然出てくるわけです。

 それを回避するには、消費全体の落ち込みをできるだけ小さくする必要があります。それには、固定概念を捨て去って新しい日本を作っていく、という考えが重要です。東北地方を対象として、3つ提案したいと思います。

 農業復興をするに当たっては、元の状態に復旧するのではなく、環太平洋経済連携協定(TPP)に対応可能な、競争力のある農業に作り替えることを念頭に置くべきでしょう。自治体を復旧する際には思い切った市町村合併を進め、強い基礎自治体を作るためのインセンティブを与えるべきです。街を立て直すに当たっては、防災型の大型エコシティーを作るような構想力が求められているのです。これらを実現し、複合連鎖危機を乗り切れば、消費、日本経済への不安が次第に和らいでいくのではないだろうか。

(聞き手は、杉山 俊幸=日経デジタルマーケティング編集長、取材日:2011年4月8日)