東日本大震災の発生以来、外資系企業の本社幹部の来日が減っている。そんななか2011年4月中旬に、米ガートナーのシニア バイス プレジデント 最高情報責任者(CIO)であるダーコ・ヘリック氏が来日した。他社にIT戦略を助言する同社でのCIOとして、米IBM、米ADPを経て2007年に入社した人物だ。米国企業のBCP(事業継続計画)の状況や、日本企業向けの提言などを聞いた。

(聞き手は井上 健太郎=ITpro

写真●米ガートナーのシニア バイス プレジデント 最高情報責任者(CIO)であるダーコ・ヘリック氏
写真●米ガートナーのシニア バイス プレジデント 最高情報責任者(CIO)であるダーコ・ヘリック氏

来日は6、7回目だそうだが、日本に来て何かいつもと違う印象はあるか。

 着いてみるといつも通りの様子なので、むしろそのことに驚いている。

米国にいるときは、日本の状況は相当に深刻に思えたのか。

 米国メディアの報道にセンセーショナルな面があるのは否めない。原子力発電所の事故が話題の中心になっている。妻は原発のことを心配して私を止めようとした。米国からは福島県も東京都も同じ地域に見えてしまう。

震災以来、東京でも電力供給に不安が生じている。米国企業は2000~2001年にカリフォルニア大停電などを経験しているだけに、電力の問題に対して敏感なのか。

 米国企業にとって、停電はより身近な問題だ。年に1~2回停電があるのは珍しくない。

 当社の立地場所(コネチカット州スタンフォード)も同様だ。だから当社は自家発電機を備え、複数のインターネット回線を使っている。

 とは言っても、多くの米国企業で停電対策が整っているとは言えない。多くが自家発電機を持っているというわけではない。

米国でもおよそこの10年間、9.11テロや、大停電、ハリケーン被害などがあった。BCPに関する取り組みや意識はどう進化しているのか。

 BCPは重要だという理解が進んでいるのは確かだ。9.11テロは、ビルが倒壊するような大災害をリスクとして認識するきっかけになった。ただしBCPに対する投資はまだ十分ではないと思う。

仮に今、あなたが東京にある企業のCIOを務めていたら、何を考えるか。

 BCPを見直すだろう。東日本大震災の後の津波は、「二次災害にどう対応すべきか」について教訓を残した。その観点から、計画を練り直す。

 特に私が目を見開かされたのは、確実なバックアップを準備することの難しさだ。セカンダリサイトが被災地に近すぎては意味がないし、自家発電機が波に流されてしまっても困る。

災害対策として、クラウドコンピューティングに目を向ける動きもある。

 あくまで当社のアナリストとは別な意見として聞いてほしいが、大手クラウドサービス業者はセンターをあちこちに分散しているので、災害対策に有効だろう。セキュリティー懸念の全てが払拭されてはいないものの、災害復旧の手立てとしても有効なのではないか。

プライベートクラウドについてはどう考えるか。

 ミッションクリティカルなシステムの形態として、有望な選択肢の一つだ。ただし、より技術が成熟することを望みたい。パブリッククラウドとの間でシステムを手軽に移動させられるソリューションが成熟することを期待している。

米国ではクラウドコンピューティングは危機対応の選択肢として検討が進んでいるのか。

 多少はあると思うが、さほど盛んだとは言えない。課題は企業内のデータをどうするかだ。サーバー機能だけならクラウドに移すこと自体は簡単だが、企業内の大量なデータをそっくり移すとなると暗号化が必要なうえ、預けることでコストがかさんでしまう。

クラウドコンピューティングの他に、災害対策として有効と考えるITソリューションはあるか。

 ユニファイド・コミュニケーションは導入してからBCPにも役立つと気づいた。当初は生産性を高める狙いで導入した。当社は社員の出張が多いからだ。

 ガートナーの日本のオフィスにも導入してある。パソコン画面上でソフトフォンを操作でき、オフィスあての電話を携帯電話などに転送することができる。

 日本の有線電話サービスが計画停電で停止したり災害で寸断したりしたときは、インターネット回線が生きていれば、まず米国のVoIPゲートウエイにつなぎ、そこから関東圏外の電話にかけられるようにしてある。

 ただし、今回の震災に関しては、使い方が周知されていなかったという問題が浮かび上がった。

危機対応以外に、情報を高度活用するためにはどんな新規投資をしているのか。

 CRM(顧客情報管理)やコラボレーション関連だ。社内の人たちが力を合わせ、社外ともコラボレーションしやすくなる環境をパッケージベースで開発している。ビジネスプロセスにコラボレーションを組み込んで、新ビジネスを生み出したい。

ガートナーはIT予算を獲得しやすい会社か。

 ガートナーであるからこそ、そうであってほしいと願っている。実情は残念ながら他社と同じだ(笑)。