クラウドの普及は業務パッケージベンダーに難しい課題を突き付ける。一方で、主力のパッケージビジネスも相変わらず競争が激しい。そんな中、一時は不振にあえいだ弥生の業績が好調だ。社長に就任して丸3年を迎えた岡本浩一郎氏に、現在とこれからのビジネスを聞いた。

(聞き手は尾崎 憲和=ITpro

写真●弥生 代表取締役社長 岡本浩一郎 氏
[画像のクリックで拡大表示]

業績が好調だと聞いている。

 弥生の主要顧客は中小企業、個人事業主、起業家だ。一時期、その上の層である中堅企業を狙ったが、かえってシェアが少し落ちて、成長も揺らいでしまった。そこにリーマンショックが重なり、厳しい時期が続いていたが、改めて主要顧客を明確に定義して地道な努力を続けてきたことで、1年くらい前から回復の傾向が見えてきた。今期(2010年10月~2011年9月)ははっきりと成長している。3月までの実績を見ると、売り上げは前年比120%だ。震災による影響は今のところ思ったほど大きくはなく、通期で過去最高の売り上げ、利益を達成できそうだ。

 地道な努力の一例として、顧客へのアプローチを変えた。以前は「会計ソフトが欲しい」という顧客に、弥生をアピールするやり方しかしていなかった。このようにニーズが顕在化した顧客へのアプローチだけでは十分ではないと考え、まだ会計ソフトの購入を検討し始める前の段階の人たちへアプローチしようと考えたのだ。

 例えば、起業を支援する施設とタイアップして「社長1年生のためのお金にまつわる講座」を開催してきた。弥生のパートナーである税理士に講師となってもらい、会計ソフトの販促につなげる。また、美理容の販社と共同で企業セミナーを実施している。美理容の業界は起業する人が多いため、我々の顧客にもなり得るわけだ。さらに、「青色申告応援プロジェクト」というWebサイトを開設した。青色申告をどうやればいいか分からない人たちに向けて、情報提供や体験記などを掲載している。こうしたセミナーやイベントはもちろん以前から行ってはいたが、今期からは本格的に取り組んでいる。

SaaS「弥生オンライン」の位置づけは。

 SaaSは成長を加速する柱の一つと位置づけている。2011年秋にリリースすべく、開発を進めている。パッケージソフトからSaaSに移行することはあまり想定していない。顧客層がパッケージソフトとSaaSとでは違うと見ているからだ。弥生のような業務パッケージに敷居の高さを感じている人に「これなら使えるかもしれない」と思ってもらって、利用してもらいたい。

 例えば、会計業務を会計事務所に丸投げしているような個人事業主は多い。丸投げといっても、実際には日報やExcelで売り上げを記録し、それをまとめて会計事務所に渡している。このやり方だと、会計事務所からの報告があるまで自社の実態が分からない。会計事務所からしても、このような記帳代行は付加価値の低い労働集約的な業務なので、あまり積極的にやりたいビジネスではない。

 そこで、日報やExcelに相当する機能をオンライン化することで、ユーザーにも会計事務所にもメリットのあるサービスを作ろうというのが、弥生オンラインの発想だ。従って、弥生の製品シリーズをそのままSaaS化するわけではない。対象領域としては、会計、販売、給与の各業務に必要な機能を統合したものをサービスとして提供する。

 2008年10月くらいからチームを作って検討し、1年半くらい前に開発に着手した。サービスとしては、Windows AzureとGoogle App Engineを検討した。Windows Azureを選択したのは、パッケージソフトと同じ開発環境で開発できるから。弥生の製品は今、Visual Studioで開発し、.NET Framework上で稼働している。同じ機能についてはほぼ同一のコードでクラウドが作れてしまうのがWindows Azureのメリットだ。