中国など新興国で抜群の競争力を持ち、高い収益力を誇るコマツ。新興メーカーを寄せ付けない強さの源泉は、国内で蓄積した真似のできない技術ノウハウだ。さらにICT(情報通信技術)を活用した儲ける仕組みも、中国などでの事業拡大に大きく寄与している。かつてCIO(最高情報責任者)を務めながら「基幹システムは競争力の源泉ではない」と言い切る野路國夫社長に真意を聞いた。
新興国、特に中国で業績が好調ですが、中国などの新興メーカーも急成長しています。今後の見通しはいかがですか。
中国メーカー製の建設機械は、キーコンポーネントが日本製なのですよ。キーコンポーネントを自分で開発する力が付かない限りは脅威にはなりません。油圧バルブなどのキーコンポーネントは造るのが難しいブラックボックスです。結局、彼らは日本製に頼らざるを得ません。一方、コマツは自分で造っています。韓国メーカーでさえついてこられない。韓国製の建設機械も、キーコンポーネントは今でも日本製です。
企業にとって国籍は重要
IT分野は、ブラックボックス化できる部分があまりありません。建設機械ではその余地が大きいということですか。

ブラックボックス化が可能なのは、アナログの技術だけです。加工技術だとか、仕上げる技術だとか、材料までを含めての技術です。細かい擦り合わせ技術であり、総合力と言ってもよい。それがブラックボックスであり、日本の多くの製造業が持っているものです。決して派手な世界ではありません。旧来型の延長線上にある技術です。
一方、デジタルの技術は、すぐにリバースエンジニアができてしまう。デジタルになった途端、すべての技術がオープン化されブラックボックスではなくなってしまいます。
ただ、油圧バルブにしても3次元の構造物です。擦り合わせは“匠の技”といったような単純なものではありません。だから、ノウハウをデジタル化しようとすると、組み合わせが何億通りあるか分からない。図面だけでは表せないから、生産技術でカバーしていくしかありません。
ブラックボックス化した3割の基幹部品を国内で造り、汎用部品は現地で調達する方針ですね。ただ他の製造業では、基幹製品や部品の製造、さらに研究開発も中国などに移す動きがあります。
では、どうやって国内で雇用を生むのでしょうか。日本の生きる道はどこにあるのでしょうか。資源のない国で製造業が生き残るには、国内での技術開発しかない。技術開発でナンバーワンでなければならない。2位では駄目です。
コマツは日本国籍の企業です。売り上げの85%は海外ですが、キーコンポーネントを輸出して日本に収益をもたらしています。さらに海外の収益の半分を配当で戻す。それを原資に国内で研究開発して、雇用を生んでいます。
企業にとって国籍はものすごく大事なことです。「日本企業と韓国企業、どちらに行きたいか。行かせたいか」と聞かれたら、日本人ならほとんどの人が日本企業と答えるでしょう。韓国人なら韓国企業です。だから、日本国籍の企業には優秀な日本人が集まります。優秀な韓国人はあまり来てくれません。中国でもそれは同じです。その意味でも、重要な研究開発は海外ではできません。
今後とも独自の技術開発で成長を目指すというスタンスですか。M&A(合併・買収)はあまり考えないのですか。
もちろんM&Aもやります。自社にない必要な技術を得るとか、市場を取るとか、M&Aにはいろんな目的があります。
実際、必要な技術は山ほどあります。例えば通信技術はコマツには全くありません。いわゆるICTは海外メーカーに頼っています。力を入れている無人ダンプトラック運行システムも、GPS(全地球測位システム)を含め米国やロシアの技術陣によって実現されています。M&Aのチャンスがあれば、内製化したい技術領域です。
業務変革の鍵は基幹系にあらず
CIO時代に基幹システムを刷新されましたが、そうした情報システムの重要度について、どのように考えていますか。
私が情報システム本部長の時に三つの柱を立てました。その一つが基幹システムです。ただ、基幹システムは自前である必要はありません。そこには、製造業としての競争力の源泉はありませんから。我々に合ったERP(統合基幹業務システム)パッケージを導入すればよいだけです。
二つめが、3次元CAD/CAM(コンピュータが支援する設計/製造)とBOM(部品表)です。三つめの柱が「KOMTRAX」です。建設機械にITを載せることで、ビジネスモデルを変革していこうというものです。そして、実際に変革を実現できました。随分前のことですから、先見の明があったと自負しています。
現在もこの三つがIT戦略の柱ですが、基幹システムは一切更新するつもりはありません。刷新しても儲かりませんからね。それに対して、最も力を入れているのが、仕事の中身を大きく変えることのできるKOMTRAXです。
野路 國夫(のじ・くにお)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)