[前編]クラウドはスマホで花開く 顧客企業との共同ビジネスも

2010年11月にAndroid搭載の新端末を投入し、出遅れていたスマートフォン分野での巻き返しを図るKDDI。12月に社長に就任した田中孝司氏は、スマートフォンと高速モバイル通信の普及でクラウドコンピューティングの可能性が大きく広がると説く。スマホとクラウドを組み合わせた企業向けサービスを中心に、事業戦略を聞いた。

スマートフォンについて、企業向けにどのような事業戦略を考えていますか。

 私はこんなふうに思っています。今ITベンダーが企業向けに展開しているクラウドサービスは、我々のような通信事業者と連携することで、さらに花開くでしょう。そうしたなかで、スマートフォンは強力なデバイスとなり得ます。我々もWindows版に続きAndroid版を出しました。スマートフォンは入力デバイスとしてはもちろん、業務アプリケーションの作りやすさという点でも優れています。

 さらに、高速モバイル通信サービスの「WiMAX」や「LTE」が利用できるようになることで、スマートフォン向けのアプリケーションなどがクライアント/サーバー型からシンクライアント型に変わることでしょう。つまり、クラウドサービスをモバイル環境と合わせて顧客に提案できる環境が整いつつあるわけです。

 KDDIとしてどうするかですが、我々は相当な数の顧客を持っています。これまでもワンストップソリューションということで、ITベンダーとはいろいろと連携して進めてきました。今後は、固定通信だけでなくモバイルを含めたネットワークとスマートフォン、そしてITベンダーのクラウドサービスなどをセットにして顧客に提案していきます。

サービスを“売る人”になる

他の通信事業者もAndroid端末を出し、今年は競争が激しくなると思います。スマートフォンの投入が遅れたKDDIとしては、他社との差異化をどのように図っていくのですか。

田中 孝司(たなか・たかし)氏
写真:陶山 勉

 主にコンシューマー向けの話ですが、やはり端末の差異化が重要です。まずハードウエアの形状とアプリケーションです。さらに、ネットワークやクラウドサービスでの差異化を、急がなければいけないと思っています。Android端末では「IS03」に続きラインアップを充実していくと共に、ネットワークの面ではWiMAXを利用できるようにします。

 スマートフォンの上で企業向けのアプリケーションが花開くと見ていますので、パートナー企業と共にアプリケーションの開拓も急ぎ進めていきます。セキュリティ面でも、データのリモート削除サービスを始めていますが、企業向けには今以上にハイスペックな仕組みを考えていく必要があるでしょう。

クラウドサービスについては、御社自身でどこまで取り組むのですか。ITベンダーなどパートナー企業との役割分担をどのように考えていますか。

 我々がクラウドサービスを提供できると言っても、しょせんは通信事業者ですから、ITベンダーに比べて劣位であることは事実です。ただ、ホスティングサービスなどの形で多量のサーバーを持っていますから、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)では競争力を持てます。アプリケーションになると、我々ができるのはコミュニケーション系のサービスの範囲でしょうね。

 それ以外のアプリケーションについては、パートナー企業と一緒に進めていきます。我々はサービスをパッケージにして“売る人”になっていくはずです。そうした取り組みが広がると、今度は通信事業者がネットワークのなかに持っている様々な機能、例えば位置情報やログ情報などを活用して、もう一段先のビジネスへとつながるのではないかと思っています。

 さらに、顧客企業との共同ビジネスの可能性も広がると考えています。我々のコンシューマーの顧客向けに、一緒にビジネスを手掛けるという形がまず考えられます。もう一つは、顧客企業のサービスも含めワンストップで、中堅・中小企業向けにネットワークと一緒に提供する形態です。ネットワークだけで完結するビジネスに加えて、すでに「まとめてオフィス」というブランドで推進していますが、ビジネス・プロセス・アウトソーシングなどの共同ビジネスも有望です。

 いずれにしろ今後クラウドが普及すると、月額料金が基本となります。通信ビジネスとの親和性がより高くなり、様々な可能性が広がっていくはずです。

KDDI 代表取締役社長
田中 孝司(たなか・たかし)氏
1981年3月に京都大学大学院修了、同年4月に国際電信電話(現KDDI)入社。85年6月に米スタンフォード大学大学院修了。2003年4月に執行役員 ソリューション商品開発本部長、07年6月に取締役 執行役員常務 ソリューション事業統轄本部長、10年6月に代表取締役 執行役員専務 ソリューション事業本部担当 兼 コンシューマ事業本部担当 兼 商品開発統括本部担当。10年12月より現職。1957年2月生まれの53歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)