[後編]事業変革はIT活用が不可欠 IT部門は技術で後れを取るな

そうした取り組みのなかで、新たなサービスも誕生しましたか。

 企業向けサービスについて言うと、今や日本中の企業にお使いいただいていますが、数年前までヤマト運輸のサービスは個人向けというイメージが、大企業のなかにありました。3年前に企業向けに物流改善の提案を始めたとき、「あれ、ヤマトさんはそんなことをやっていたの」と言われました。個人向けのイメージが強すぎたのです。我々もある意味、それで満足していたわけです。でも、そうした提案を始めると、顧客の期待感が変わってきました。 

 そんななかで生まれたのが、例えば「マルチメンテナンス」と呼んでいるサービスです。修理品やリコール品を個人から企業に運ぶ物流は、どの同業者も視野に入っていない領域でしたが、我々の主戦場になり得るものとして、3年前に始めました。修理が必要な製品を我々が個人宅から回収してきて、簡単な修理なら我々自身が手がけています。

IT投資にネガティブな企業も多いなかで、御社は情報化にお金も掛けています。IT投資に対する判断をお聞かせください。

木川 眞(きがわ・まこと)氏
写真:陶山 勉

 サービスの品質維持のために、今まで膨大な額のIT投資を実施してきました。2010年度から順次カットオーバーさせている「第7次NEKOシステム」の投資額も300億円に達しています。

 5次NEKOまでは、業務の効率化のための投資だったのですが、6次NEKOからは戦略投資です。つまり、我々の商品であるサービスの品質を高めるための投資です。競合がついてこられないようなサービスを追加するためには、どうしてもITが必要になります。7次NEKOでも、新たな携帯端末などを導入しています。

 目的が業務の効率化なら投資対効果も見えやすいのですが、戦略投資となると、その費用対効果を事前に測るのは正直難しい。ただ7次NEKOでは、サービスの品質アップとコストダウンを両立させることを目指しました。

 例を挙げると、2010年2月から始めた「クロネコメンバーズ 宅急便 受取指定」があります。これはITなしには絶対に成立しないサービスです。同業者からは、そんなことをやったらコスト倒れになると怒られましたが、我々が狙ったのは、サービス品質の向上と同時にコストを大幅に下げることなのです。顧客に到着予告メールを読んでいただいて、不在時間のお届け予定なら、在宅時間に変えていただく。そうしたら1回で届けられますので、我々のコストも大幅に下がるわけです。

システム内製化は絶対に必要

IT部門やシステム子会社にはどうあってもらいたいですか。

 システムを内製化している今の体制は絶対維持しないといけないと思っています。あえて要求するとしたら、技術レベルで絶対に世の中に遅れるなということです。その保証があってこそ、我々がIT部門を持つことの意味があります。

ヤマト運輸 代表取締役社長
木川 眞(きがわ・まこと)氏
1973年4月、富士銀行に入行。2002年4月にみずほコーポレート銀行の常務執行役員、04年4月に常務取締役。05年4月にヤマト運輸に入社し、同年6月に常務取締役。同年11月(純粋持ち株会社体制に移行)、ヤマト運輸の取締役。06年4月にヤマトホールディングスの代表取締役 常務執行役員、同年6月に同社の代表取締役 専務執行役員に就任。07年3月より現職。08年6月よりヤマトホールディングスの取締役 執行役員。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)