近畿圏でブロードバンド事業を積極展開するケイ・オプティコム。NTT東西の光ファイバーの貸し出しについては、インフラに投資する事業者同士によって、料金競争が進んでいると主張し、1分岐単位での貸し出し義務化に反対の姿勢だ。同社の藤野社長に、競争環境についての展望や今後の方針を聞いた。

(聞き手は滝沢 泰盛=日経コミュニケーション



NTT東西の光ファイバーを1分岐単位で貸すことに反対の立場ですが(関連記事)、問題は何ですか?

ケイ・オプティコム 代表取締役社長 藤野隆雄氏
ケイ・オプティコム 代表取締役社長 藤野隆雄氏

 もともとシェアドアクセス型の回線は、1芯を事業者の営業努力によって最大8ユーザーに共用してもらってコストを回収する設計をしています。これを最初から8分の1にしてしまえば安くなる、というのが1分岐単位の貸し出しを求めている事業者の主張です。

 ですがこの論理にはおかしな部分があります。1分岐単位の料金ができれば、8分岐のうち1分岐分しか借りない事業者も出てくるでしょう。その時、本当は3ユーザー以上に共用してもらうことでようやく回収できるはずのコストは、誰が負担するのでしょうか。その分を自社の努力ではなく、NTT東西につけ回すことで安くしようというのが、1分岐貸しの議論なのです。

 これではNTT東西だけでなく、同じように回線の共用率を高めることで対抗しようと努力している我々のような事業者にとっても不公平な競争になるというわけです。

 現行の貸し出しルールでも、8分岐分をNTT東西以外の複数の事業者で共用することは可能です。だからソフトバンクとイー・アクセス、地方のDSL事業者などが共同で回線を借りて、既存のDSLユーザーの乗り換えなどで共用率を高めていけばよいのではないでしょうか。参入したいと希望する事業者が集まれば、採算分岐点には達するはずです。

 そう言う方法があるのに採用していない。つまり、営業努力をせずに済む最小のコストで借りたいだけではないか、というのが1分岐貸し議論に対する私の印象です。

競争による料金低廉化は、近畿圏では確かに回線インフラを保有する事業者同士だけでも成立しています。ですが、東日本を中心にNTT東西以外は参入していない地域もあります。1分岐貸しによる競争導入はそうした地域にとってメリットがあるのではないでしょうか?

 確かに北海道や東北など、限られた都市部に人口が集中する地域では、設備ベースの競争で採算に見合うようにエリアを拡大することは大変です。そうした地域にブロードバンドを提供する手段は、国の補助による公設民営方式や、無線方式による代替といった枠組みを議論する必要があるでしょう。全国普及に向けての議論はそちらが中心になるべきではないでしょうか。

 1分岐貸しで全国に普及させるというロジックでは、前述のようにNTT東西だけにコスト負担を追わせる構造になります。その結果、回収できないコストは、設備を借りる事業者も含めてNTT東西の利用者全体で負担することになります。これもフェアとは言えないでしょう。

 四国では公設民営のインフラを、CATV事業者と電力事業者が共同運営するなど、様々な工夫があります。NTT西日本も同様に地元のCATV事業者と共同展開している例があります。光に固執するのではなく、利用者にとって何が便利なサービスか、そのためにどのようなインフラとサービスの組み合わせが良いかを考えて、地道に需要を喚起することが普及の鍵になるのではないでしょうか。

NTT東西は、フレッツ光に従量課金制の料金プランを導入するようです。どのように対抗しますか?

 従量制の導入という視点は、ヘビーユーザーとごく普通のユーザーの間の料金負担の公平性という観点からは、一理あると言えるでしょう。どのユーザーも均一料金ということでは、ヘビーユーザーほど得をしてしまうことになります。ただ、従量制プランがごく普通のユーザーにとって、現在の定額制よりも負担が大きくなる料金体系になってしまっては、問題があるでしょう。

 インターネットを利用していると、迷惑メールやソフトウエアの自動アップデートなど、必ずしもユーザーが予想できない一定のトラフィックが発生してしまいます。普通に使っていて自然に発生してしまうトラフィックは、基本料金内でカバーできるようにするなど、考えなくてはならないことがある。ただ、競争事業者である我々としては、NTT東西がそうした料金プランを出してきたら、必ずそれより安い料金で提供できるよう努力するつもりです。

 NTTグループとの競争という観点では、公平な競争を実現するために制度面でまだまだ整備してもらいたいことがあります。

 今は接続料だけがクローズアップされていますが、我々のように実際に同じ市場で競争している立場からすると、NTTのグループとしての総合力が不正に使われていないか、きちんと監視する体制が必要です。

 2010年にはNTT西日本とその子会社による、個人情報の不正利用がありました。それだけでなく、子会社はNTTグループのブランドを使って、あたかも東西地域会社の支店であるかのように一体営業しています。こういうNTT法の主旨とは外れた実態について、今は我々が証拠をつかんで総務省に提出しなければ、ペナルティが発生していません。業務範囲もずっと拡大し続けています。

 本来ならNTT東西自身が、厳正にルールに則って、機能分離を実現してくれれば問題はないのですが、厳しい競争環境ではそうもいかないようです。外部から、子会社を抜け穴にしたり、NTTブランドを何にでも使うなどして不正に競争優位に立っている実態がないか、能動的に監査してもらうことが必要だと思います。