Webを通じた消費者とのやり取りは「インテリジェンスの交換」だ

 「日経ネットマーケティング」が最終号を迎え、3月号から新生「日経デジタルマーケティング」に衣替えするに当たって、かつて自らもマーケティングの最前線の経験を持つ花王の尾崎元規社長に、その神髄を語ってもらった。「マス広告は転機を迎え、Webを通じた消費者とのやり取りは“インテリジェンスの交換”と認識すべき」と言う。まずは、消費者の変化から話は始まる。

消費低迷と言われて久しい我が国にあって、消費者志向の変化を花王はどう捉え、いかに事業に反映していますか。

 とりわけリーマンショック以降、消費者は節約志向へと一気に向かい、それにも疲れてくると、時にはリッチな気分を味わうようになるなど、とても合理的な考えに基づいて行動するようになってきていることを痛感しますね。より合理的になっていく消費者の考えを後押しするのが、Webの浸透だと思います。メーカーが持つWebサイトからの情報に加えて、クチコミ情報や有名ブロガーが発する情報が消費者に大きな影響を与えるようになっています。例えば化粧品においては、クチコミサイト「アットコスメ」のランキングを見て、商品を指名買いするといった具合です。

お話しの化粧品事業は、花王の今年度中間期における売上高は1268億円と前年同期比で3%の減少となりました。国内市場のパイも縮小する中で、尾崎社長はマーケティング改革を打ち出しています。

 その1つが、IBC(統合ブランドコミュニケーション)という考え方による、マーケティングの効率化です。化粧品ではマス広告、Web、店頭カウンセリングなどをうまく使い分けながら、消費者に接していく必要があると考えています。

 マス広告の意義は確かに以前とは変わり、テレビCMについては今年7月にテレビの(地上)アナログ放送が全面的にデジタルに切り替わることも重要な変化です。専用レコーダーで数十時間も容易に録画できるようになっています。

それを再生して見るときに、アナログ時代とは違って画質の劣化もない。

 だから、相当な人たちがテレビCMを見なくなってしまったと考えられます。これまで花王は、宣伝費のざっと6~7割をテレビ向けに投じてきましたが、本当にそれでいいのかということを熟慮する段階に来ていると思います。花王が消費者に伝えたい情報が、本当に消費者の方々に理解してもらいやすい情報になっているか。それを見直さないといけません。

 各商品を細かくカテゴリー分けして、どのカテゴリーの顧客はどこで情報に接し、また、購入時に参考にする情報は何かを明確にする必要がある。メーカーは、それに対応できているかを常に検証することが求められます。マス広告よりもWebが適切であれば、Webを通じたコミュニケーションへとスピーディーに切り替えていく必要があります。その場合、私は社内でよく言っているのですが、消費者との間で行っているのは、「インテリジェンスの交換」なんだと認識すべきということです。この交換がうまくいっていないなら、それは社長として見過ごすわけにはいきません。