ハリウッド映画やテレビ・CMなどのビジュアル・エフェクトに欠かせないCGソフトウエア。その中でもハイエンドCGソフトである「Autodesk Maya 2011」の主席開発者であるダンカン・ブリンスミード氏に、CG技術開発が抱える問題と、今後進むべき方向性などについて尋ねた。

(聞き手は、渡辺一正=nikkei BPnet編集部



ダンカン・ブリンスミード氏<br>Principal Scientist, M&E Product development<br>Autodesk
ダンカン・ブリンスミード氏
Principal Scientist, M&E Product development
Autodesk
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現在のCG技術について、トレンドや方向性について聞かせてください。

 まずは、Mayaにおける研究目標としてお話しします。実は、「破壊」に関するエフェクトを、単体のCGソフトウエアだけで完結できていないという事実があります。なぜ難しいのかというと、「破壊」は様々な技術領域が重なった結果を計算するからです。

 具体的な例を一つ挙げましょう。1つの物体が破壊されるとき、物体の頂点構成――トポロジーが変更され続けながら、壊れていくことを再現するのは、実はとても難しいことなんです。破壊前と後で、同じ物体であることを、見た目でも理解できるようにしなければなりませんし。

理想とする「破壊」エフェクトは最新版のMaya 2011ではまだ完成していなくて、現在もチャレンジしているということですね。

 そうですね、まだチャレンジしている最中です。少しずつ機能をステップアップしている段階と言えます。Mayaの流体エフェクトツールである「Fluids」では、破壊された破片が四方に散らばるとき、破片が煙を出しながら動くといった機能を追加しました。Maya 2011では、「破壊」が重要なフィーチャだったのです。

Maya 2011で搭載した流体エフェクト「Fluids」の機能の一例。流体物をポリゴン(メッシュ)に変換するときに、その頂点の色や発光などを設定できるようになった。それによって、流れる溶岩のような流体をリアルに再現できる。
Maya 2011で搭載した流体エフェクト「Fluids」の機能の一例。流体物をポリゴン(メッシュ)に変換するときに、その頂点の色や発光などを設定できるようになった。それによって、流れる溶岩のような流体をリアルに再現できる。
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Maya 2011のパーティクルエフェクト「nParticle」の機能の一例。無重力状態の水の振る舞いを、新しく追加した「パーティクルの粘度値」を使って、液体のシミュレーションができるようになった。
Maya 2011のパーティクルエフェクト「nParticle」の機能の一例。無重力状態の水の振る舞いを、新しく追加した「パーティクルの粘度値」を使って、液体のシミュレーションができるようになった。
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 ただし、それで満足しているわけではありません。Maya 2011にある「リジッドボディ」(※1)機能は、ロボット・アームの間接を再現するには便利だけれども、何千もの破片が飛び散るのにはまだ向いていません。「破壊」に便利なサードパーティ製のMayaプラグインはすでに開発されていますが、我々はMaya本体の弱点でもあるリジッドボディに改良を加えて、機能を補いたいと考えています。

※1 Mayaのリジッドボディ(Rigid Body)機能とは、ポリゴンや自由曲面などのサーフェスモデルを固い物質として扱い、お互いに衝突(コリジョン)した場合、突き抜けずにお互いに反発するという物理演算する機能のこと。逆に、柔らかい物質を表現するときは、ソフトボディ(Soft Body)機能を使用する。