[後編]勝負どころはWiMAX端末の多様化、“攻め”の立場で固定回線市場も狙う

目下の課題は。

 一番の課題は、UQ WiMAXの認知度が今ひとつなことだ。だから、トレインチャンネルやトレインジャック、イベントなどを通じて、もっと利便性を訴えかける。2010年の10~11月は、ブロガーミーティングや街頭でのイベントなどに積極的に取り組んだ。

 年間パスポートの開始もそういうアピール策の一つ。これまではエリア整備が十分でなかったために、他社のように最低契約期間は設けてこなかった。ただ、基地局は年度末で1万5000局。東京についていえば人口カバー率は99%だ。だから少し考え方を変えて、年間パスポート採用に踏み切った。

基地局はもう十分に広がったと?

 主要都市、政令指定都市については現状で90%を超えている。大阪、神戸、中部圏といったところは99%に達するよう、埋めていく。

 こういう面展開と並行して、鉄道や道路に沿った線展開も進める。今は関東圏の路線を埋めていっている。最近、中央線は切れなくなったなどと言ってもらえるようになってきた。来年の早いうちには、私鉄の近鉄、阪急、阪神など中部と大阪の路線を埋めていく。そのほかホテル、コンベンションセンターなどスポットの対応を進めていけば、大きな意味で当社が最低限備えるべきところは出来上がると思っている。

端末戦略はどう考えているか。

野坂 章雄(のざか あきお)氏
写真:新関 雅士

 我々はオープンデバイスをポリシーとしているから、基本的に自ら端末を開発・提供することはない。端末に関する戦略は、世の中の人にもっとネットワークを使い倒してもらうべく注力することだ。

 もう少し具体的に言うと、KDDIをはじめ我々にとってMVNO(仮想移動体通信事業者)の立場にある企業に、積極的に売ってもらう。一例が、11月にKDDIとオンキョーがコラボで企画したタブレット型端末だ。CDMA/WiMAX対応データ通信端末の「DATA01」などと合わせて販売するもので、こういう動きをもっと支援していこうとしている。

 いずれはゲーム機やデジタルカメラといった非パソコン(ノンPC)と組み合わせるところまでやりたい。一つ、可能性がありそうだと思っているのが、ホームゲートウエイのようなもの。最近、若者を中心に固定のブロードバンド回線は要らない、全部無線でいいという声が聞かれるようになってきた。リピーターなりルーターを普及させられれば、固定回線のマーケットを狙え、屋内のエリア問題を解決できる。WiMAXのインタフェース、IP電話のゲートウエイを搭載したホームゲートウエイを提供すれば、「安い」電話を含めた付加価値商品としても売れる。

固定回線との関係でいうと、他社では一部のトラフィックを固定回線に流そうとする動きもある。

 確かに、電波は有限のリソースだから、非常に多くのユーザーがWiMAXで動画などを頻繁に利用し始めたら、同じことを考えるかもしれない。ただ、今のUQコミュニケーションズの立ち位置は攻める側。まずは固定の領域を食っていくくらいの感覚を持たないと、立ち位置をキープできないだろう。

その先で、トラフィックがすごく増えたときに改めて考えればいいと。

 恐らくそのころには、300Mビット/秒のWiMAX 2(IEEE 802.16m)が実用になる。WiMAX 2になると容量が一気に増えるから、問題を緩和できるだろう。もちろん、そのための準備は必要だ。計画として示している2012年にWiMAX 2のサービスを始めるとすれば、2011年のうちから、そのための対応を考えていかなければいけない。そういう観点で、トラフィックの出方、埋まり方を注意深く見ている。

 WiMAX 2は、LTE-Advancedと一緒に第4世代移動体通信(4G)システムの規格として採択された。今後は、国際規格のフォーラムで標準化作業が進む。2012年サービス開始というスケジュールに問題はないとみている。

UQコミュニケーションズ 代表取締役社長
野坂 章雄(のざか あきお)氏
1956年生まれ、島根県出身。2000年10月にKDDIアメリカ上級副社長。その後、KDDIブロードバンドコンシューマ事業企画本部長、KDDI中国総代表などを経て、2009年10月、KDDI理事。2010年6月、UQコミュニケーションズ代表取締役社長に就任。KDDI中国総代表時は、2008年2月の「テレハウス北京データセンター」開設など、急速に経済成長する中国へ進出する日系企業の支援に向け、グローバルICTソリューション事業の強化に従事した。好きな言葉は「遠山の目付」(宮本武蔵の言葉。物事の本質は、一つのことだけに着目するのではなく、周り全体を見渡したときに理解できたりすることなどを意味する)。

(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年11月2日)