マイクロソフトは2010年11月25日に、オンライン版の顧客管理アプリケーション「Microsoft Dynamics CRM Online」の国内提供を正式発表した。サーバー機向けのソフトウエア製品よりもオンライン版を先に提供することで、同社がクラウドに“本気”であると示す戦略的プロダクトと位置付ける。日本を含むアジア太平洋地域全般の戦略を担当するエイドリアン・ジョンストン氏に製品の戦略を聞いた。

(聞き手は根本 浩之=ITpro


米Microsoft エイドリアン・ジョンストン氏
米Microsoft
General Manager, Microsoft Dynamics - Asia, Asia Pacific, Greater China, India & Japan
エイドリアン・ジョンストン氏

担当している業務内容を教えてください。

 Microsoft Dynamics CRM関連製品に関するアジア太平洋地域の責任者を任されている。担当地域には中国やインドも含まれている。マイクロソフトに入社する前は、オラクルで同様の業務アプリケーションを11年間担当していた。

日本での提供を発表したMicrosoft Dynamics CRM Onlineの具体的な提供スケジュールを教えてください。

 オンライン版のMicrosoft Dynamics CRM Onlineは2011年1月に提供する。サーバー向けのソフトウエアとなるオンプレミス版はおそらく2011年3月の提供となる。

こうした業務アプリケーション分野のソリューションを日本のユーザーに使ってもらうには、どのような工夫が必要だと思いますが?

 日本市場は歴史的にパッケージされたものが強い。マイクロソフトはCRMアプリケーションの拡張性を重視しており、アプリケーションをビジネスの要求に合わせてカスタマイズできる点を強調していく。

 マイクロソフトには、メールなど社内のコラボレーション環境を提供するオンライン版のBPOS(Business Productivity Online Suite)で1万社のパートナーがいる。Microsoft Dyanamics CRMでもサブインダストリーソリューションが重要になると思っている。

 すでに、日本でも58のパートナーが具体的なソリューションを提供している。例えば、保険のソリューション、公共部門向けの患者のヘルスケアなどがある。日立情報システムズや日立ソリューションのように、SFA(営業支援)の機能を提供するところもある。ユーザーはマーケットプレイスを見ながら、適切なソリューションを簡単に選んで、ダウンロードして使うことができる。

 こうした形でのパートナーソリューション以外に、将来的にはパートナーが業務アプリケーションの形にパッケージ化した形で提供していくだろう。

Microsoft Dynamics CRM 2011ではマイクロソフトの製品として初めてオンライン版を先行リリースしました。

 今回のMicrosoft Dynamics CRM 2011ではオンライン版をまず出すという意思決定を下したが、オンラインとオンプレミスは基本的に同じコードを使っている。あくまで、それをどう出していくかという問題だ。

 我々はクラウド対応のオンライン版のソリューションから出していくが、自社にサーバーを設置したオンプレミスのソリューションやプライベートクラウドと組み合わせたいというユーザーのニーズもある。マイクロソフトのソリューションの特徴は、クラウドとオンプレミスの両方のソリューションを提供できる点だ。競合他社は、どちらかしか提供していない。

 マイクロソフトのソリューションを利用するユーザーは、クラウドとオンプレミスを自由に組み合わせて利用できる。クラウドで構築した環境をオンプレミス環境に対してシームレスに移行できるし、逆も可能だ。両方を必要に応じて組み合わせて同時に利用することもできる。

クラウドのオンライン版とオンプレミスのパッケージ版を、ユーザーはどのように使い分けていくのでしょう?

 銀行など特定の業種ではプライベートクラウドを選ぶ傾向になると思う。自分たちのデータは自分たちで管理したいと考えるトラディショナルな企業も多いだろう。プライベートなデータを扱う生命保険のソリューションでは、基本的にオンプレミスで使うパッケージ版やプライベートクラウドを重視していくことになるだろう。

 一方で、データはクラウドに置き、それ以外は社内のオンプレミス環境でしっかり管理するといった具合に、クラウドとオンプレミスを組み合わせていく方針のユーザーもいる。

 これからMicrosoft Dynamics CRM Onlineを利用するユーザーは、まず1年あるいは6カ月といった期間でトライアル的に利用してみて、最終的にはオンプレミスに移行するという形が多いのではないか。逆にオンプレミスで構築しておいて、複数の国で展開するに当たってオンラインにする人もいるだろう。

 組織によって動きが速いところもあれば、遅いところもある。マイクロソフトとしては、どの組織にとってもベストのオプションを提供することが重要だ。

 クラウドを利用したほうがコストは低く抑えられる。データベースの管理者など人的リソースも必要なく、復旧やメンテナンスといったサービスが提供される。長い目で見れば、ほとんどはオンラインサービスを利用していくことになると思う。

オンライン版を利用した場合に製品のアップグレードはどうなりますか?

 アップデートはオンライン版のほうが早く提供されるだろう。ユーザーはアップグレードしたければアップグレードしていいし、互換性などの問題でしたくなければアップグレードしなくてもいい。アップグレードで製品を抜本的に変えるわけではない。徐々に変えていけるのがクラウドの魅力だ。アップデートに関しては、追加する機能内容を90日前には発表していこうと考えている。