[後編]製品を販売するにあらず 自社の改革ノウハウを提供

Vblockで使っているシスコのサーバーUCS自体は、どのように売り込んでいくのですか。

 極めてシンプルです。VblockはSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)にしか対応していないので、NAS(ネットワーク接続ストレージ)が必要な際にはV-blockは使えません。仮想化技術についてもVMwareではなくて、Hyper-Vを使いたい場合もあるでしょう。そういったニーズに対して、UCSをベースに個別に対応していくわけです。

 今、UCSベースの簡易パッケージやソリューションを作り込んでいる最中です。カタログに載せるような売り方ではなくて、お客様の要望に合わせて個別に提供していきます。ネットアップとはそうした取り組みを続けていますし、マイクロソフトとも協業できたらと思っています。

 UCSのユーザーは国内で30社強に達しています。製造業やデータセンター事業者、地方自治体、そして教育機関などです。最初の立ち上げとしてはまずまずですが、これからはもっと積極的に展開していきますよ。

平井さんが社長に就任した意味も、そこにありますか。

 私もルーターやスイッチだけやるのでしたら、シスコに入っていません。2年半前に入社したとき、それまでお世話になったお客様を訪問すると、「平井さん、ルーターやスイッチなんて分かるの」と不思議がられたものです。UCSを発表してようやく、お客様から「何でシスコに行ったのか、やっと分かったよ」と言われるようになりました(笑)。

会社対会社の関係作りが課題

米国本社では最近タブレットPCを発表しました。「なぜシスコが」という疑問の声もありますが。

平井 康文(ひらい・やすふみ)氏
写真:陶山 勉

 シスコは3兆円のキャッシュを持っています。IPという基軸は外しませんが、今後いろいろな話があると思います。ただ、タブレットPCのような製品は、あくまでも目に見える提案の一部でしかありません。そういったものを使って、グローバル化などお客様の改革を支援していくというのが本質です。

 これは“絵に描いたもち”ではありません。シスコが社内で試みて、失敗して、やけどしながら作ってきたものです。シスコが目指すのは、「Dynamic Networked Organization」と呼ぶ新しい組織体、新しい企業体です。

 シスコでは社長が一番偉いのではなくて、私は「社長」という役割でしかないのです。現場の営業やSE、PR担当も役割が違うだけで、みんなフラットです。

 そして海外も含めて、すべての個人のナレッジなどがディレクトリーのなかに入っており、PCやタブレットPCを使ってどこからでも見ることができます。特定のナレッジを持った人たちと日本という枠組みにとらわれず、ダイナミックにプロジェクトを編成できるわけです。

 こうした経験をまとめて、お客様に提案する。そのとき目に見えるものがビデオだったり、タブレットPCだったりするわけです。ですからタブレットPCを発表しても、社内では皆iPadを持っていますよ。

そのタブレットPCを日本でも販売しますか。

 出します。最初のお披露目は11月後半のセミナーで予定しており、実際に出荷するのは来年の第1四半期ですね。

最後に新社長として、日本法人に課題があるとしたら何だとお考えですか。

 シスコはネットワークから出発していますので、お客様のネットワーク担当部門との付き合いは長いです。その分、会社対会社のリレーションシップ作りができていなかったような気がします。経営者からすれば、シスコ製品は床の下か、壁の裏にしかなく、見たこともなかったでしょう。ようやくお客様に直接利用してもらえる製品が出てきているわけですから、経営とのリレーションも作れる人材を育成していかなければなりません。

シスコシステムズ 代表執行役員 社長
平井 康文(ひらい・やすふみ)氏
1983年3月に九州大学理学部数学科卒業、同年4月に日本IBM入社。95年1月に米IBM出向。97年1月に日本IBMに帰任。2001年1月に理事ソフトウェア事業部長。02年7月に米IBMのソフトウェア・グループのバイスプレジデント。03年3月にマイクロソフトに入社し、取締役エンタープライズビジネス担当。06年7月に執行役専務。08年2月にシスコシステムズ入社、同年3月に副社長エンタープライズ&コマーシャル事業担当。10年8月より現職。1960年11月生まれの49歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)