[前編]クラウドのプロデューサーに スマートシティ事業も協業で

ルーター/スイッチなどネットワーク分野では圧倒的なシェアを持つシスコシステムズ。さらなる業容の拡大を目指して、日本でもクラウドやスマートシティ分野に焦点を絞って新たな事業を立ち上げつつある。8月にその日本法人の社長に就任した平井康文氏に、クラウドなどの事業戦略を聞いた。

国内でスマートシティ事業を推進するための新たな専門組織を、8月に設置しました。

 スマートシティを当社では「スマート コネクテッド コミュニティ」と呼んでいます。目指すところは新たな都市開発です。電気、ガス、水道に次ぐ第4のユーティリティーとしてIPを位置付け、ビル、エネルギー、教育、医療、公共サービス、安全と安心、運輸、そしてスポーツ&エンターテインメントの八つの分野で貢献したいと考えています。

 例えばビル分野では、全く違うネットワークで成り立っている防犯や防災、空調、照明、OAをIPで統合し、運用管理を容易にして、エコなビルを実現しようとしています。一昨年から東京大学のグリ ーンICTプロジェクトに参加しノウハウを培っており、現在はエンジニアリング企業とも協業して事業を進めています。教育や医療分野は特に力を入れており、日本のためにシスコとしても貢献をしたいと思っています。ビデオを使った教育や遠隔診断、治療、相談という分野ですね。

 ユニークなのはスポーツ&エンターテインメントの分野です。スマートシティとして取り組む企業は多分ほかにいないでしょう。福岡のヤフードームに導入していますが、年間シートにディスプレーを置き、ピッチングを好きなアングルから見られるようにしました。そうしたら、ペアで100万円の年間シートが1カ月で完売しました。ITでエンターテインメントをより魅力的なものにできたわけです。

新たな事業推進組織で、ビジネス面ではどのような取り組みをされるのですか。

 非常に足の長いビジネス開発が求められます。韓国の仁川のプロジェクトでは5年、中国の重慶でも3~4年という時間をかけ、政府と一緒にじっくりと成果を積み上げています。国内でも息の長い取り組みになるので、単純な営業組織ではなくて、大きなビジネスを開発するチームと位置づけています。

 参画する営業と技術者には、新しい協業モデルの構築を求めています。不動産会社や地場企業など従来は付き合いがなかった企業と新しいパートナーシップを作っていく。そのなかで、シスコはイネーブラー(後押し役)となり、プラットフォームを提供する役割を担います。そのためには、業績を追うチームとは別の戦略的な組織が必要だろうということで設立した次第です。

クラウド専用機を協業で提供

国内でもクラウド専用機のVblockを出荷されました。当然クラウドも注力分野ですよね。

平井 康文(ひらい・やすふみ)氏
写真:陶山 勉

 その通りです。スマートシティとクラウドが2本柱です。ただ、シスコはクラウド分野でも主役になることはありません。我々はクラウドのプロデューサーになりたいと思っています。

 Vblockの提供体制はようやく整いました。EMCやヴイエムウェアとの協業もきっちりとできており、最近、初受注することができました。メインフレームからの移行案件で、すでに導入されています。パッケージソリューションでシステムの構築・運用が容易なため、「1回使い始めたらやめられない」とおっしゃっていただいております。

 Vblockには、VDI(仮想デスクトップ・インフラストラクチャー)のソリューションもありますし、オラクルやSAPのアプリケーションの動作保証も完了しています。これからは、上位レイヤーのソリュ ーションを持っているISV(独立ソフトウエアベンダー)など多くのパートナー企業と協業していきます。

オラクルもクラウド専用機を発表しました。協力関係を続けていけますか。

 IT業界は、机の上で握手しながら、机の下で足をけり合っている世界ですからね。やはり、お客様により多くの選択肢を提供するという意味で、いろいろな組み方があるはずです。そういう模索をしていかないと、IT業界そのものが廃れてしまいますよ。

シスコシステムズ 代表執行役員 社長
平井 康文(ひらい・やすふみ)氏
1983年3月に九州大学理学部数学科卒業、同年4月に日本IBM入社。95年1月に米IBM出向。97年1月に日本IBMに帰任。2001年1月に理事ソフトウェア事業部長。02年7月に米IBMのソフトウェア・グループのバイスプレジデント。03年3月にマイクロソフトに入社し、取締役エンタープライズビジネス担当。06年7月に執行役専務。08年2月にシスコシステムズ入社、同年3月に副社長エンタープライズ&コマーシャル事業担当。10年8月より現職。1960年11月生まれの49歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)