7.2Mビット/秒のHSDPA、21Mビット/秒のHSPA+、無線LAN対応のモバイルルーターなど、他社に先駆けた取り組みに積極的なイー・モバイル。常にモバイルでの国内最速を目指すとともに、ユーザーの利便性向上を強く意識する。42Mビット/秒のサービスインも間近。これからの事業方針を聞いた。
モバイルの分野で、これから最も伸びそうだと期待しているサービスは何か。
イー・モバイルでの今一番の売れ筋は、無線LAN対応モバイルルーターの「Pocket WiFi」を使うサービスだ。3.5G(第3.5世代移動体通信)で、下り速度は最大7.2Mビット/秒。HSPA+(下り最大21Mビット/秒)ほどの高速性はないものの、新規顧客の半分はPocket WiFiを選んでいる。
Pocket WiFiの何がウケていると思うか。
携帯音楽プレーヤー、タブレット型端末、デジタルカメラ、携帯型ゲーム機など、無線LANに対応している様々なデバイスのモビリティーを、手軽に高められることだろう。言い換えれば利便性だ。これらのデバイスはUSBポートを備えていないものが多く、どこでもネットにつながるというモビリティーは実現しにくかった。
ユーザーはどんどん利便性を求めるようになっている。例えば、21Mビット/秒のサービスはHSDPA(Pocket WiFi)と月額料金はあまり変わらない。それでも契約数の割合は、5対1でPocket WiFiのほうが格段に多い。
今の市場で利便性が重視される傾向が強いことは、スマートフォンが多くのユーザーに受け入れられていることからも分かる。ユーザーが期待しているのは、様々なアプリケーションを使えることや操作性の良さだ。
Pocket WiFiの課題は何か。
バッテリーの持ち時間だ。モビリティーを高めるためのポイントは、端末の軽さとバッテリーの持ち時間の二つ。Pocket WiFiは、80グラムとかなり軽い。その先につながる端末も、軽量化されているし、バッテリーの持ち時間も長い。あとはPocket WiFiのバッテリーだろう。
今でもスペック上は他社よりも長持ちすることになっているし、実際に使うと連続4~5時間は持つ。それでも、軽いままで、もっとバッテリーが長持ちするようにしたい。それがユーザーのモバイル環境全体で見た利便性を高めることになる。
もちろんユーザーからすれば、通信速度も速いほうがいい。とはいえ、高速化するとバッテリーの持ち時間は短くなる。今はチップセットまで含めて、どれだけバッテリーの持ち時間を延ばせるかがポイントだと考えている。
モバイルルーター関連では、NTT東日本とも組んでいる。固定回線のユーザーに利便性を訴求して顧客を開拓しようということか。
NTT東日本との協業では、「光ポータブル」契約者にレンタルされるモバイルルーターのSIMカードを我々が提供する。顧客開拓につながることは確かだが、どちらかというと別のファクターで考えている。
具体的にいうと、モバイル網のトラフィックを分散させたいと考えている。イー・モバイルのユーザーのトラフィックは夜9時過ぎくらいから夜中にかけて最も高くなる。ピークは夜中の1時ころ。この時間帯は、恐らく外で使っているのではない。
アンケート調査の結果を見ても、6~7割は自宅で使っている。多分、その9割以上は固定回線を持っているはずだ。だから、このトラフィックは固定系のネットワークに流したい。そのほうがネットワークが混雑せず、当社のユーザーの満足度を高められる。家庭内の無線LAN+光回線のほうがスピードも速いはずだ。
経営統合したイー・アクセスを含め、ほかの固定系の事業者とも組んでやっていけると思っている。
エリック・ガン(Eric Gan)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年10月8日)