[後編]クラウドでSIが儲からない時代に ベンチャーにはチャンス

先を見てますね。ほかのITベンダーは今からクラウド事業を始めようという段階です。そこまでの危機感を持つ理由は何ですか。

 今のクラウドブームは、クラサバが出たときの状況によく似ているのです。いまだに大手SIerや販社の営業マンは、お客様に「クラウドは時期尚早ですよ。落ちたらどうするんですか」などと言っている。クラサバのときと全く同じ現象で、私もIBMのオフコンを売っていたときに同じことを言っていました。そうしているうちに、みんなクラサバに変わって、汎用機やオフコンが売れなくなったのです。

 だから、「クラウドはまだ早い」なんて言っているITベンダーの人の話を聞くと、私はしめしめと思ってしまいます。

 クラウドがどう発展するかについても、クラサバのその後の発展の歴史を振り返れば、見えてきます。開発ツールや業務アプリケーションが増えてくる。この流れは間違いないでしょう。

 もう一つ参考になるのは、ERPの歴史です。あれだけ売れて儲けたけど、今はもう市場が飽和状態になっています。SAPのERPで開発ができるというだけで、いくらでも仕事があった時代が2~3年続いたと思いますが、今では「ERPの開発ができます」と言ったところで、「それがどうした」という状況です。3年後にはクラウドも同じようになるでしょう。

 それと、クラサバが出たことによって、ハードウエアで儲からなくなったように、クラウドの普及によって今度はサービス、つまりSIで儲からない時代になると思います。特にインフラ系のエンジニアが要らなくなります。データベースのチューニングも不要です。業務をシステムにすることだけを考えるシステムエンジニアがいれば済んでしまいます。

AzureはVMロールに期待

AzureやGoogle App Engineなども含め、各クラウドサービスをどう評価していますか。

佐藤 秀哉(さとう・ひでや)氏
写真:陶山 勉

 実案件で、SalesforceとGoogle Appsとをつないでいる事例が結構あります。Salesforceはグラフィック表示が弱点なので、Google Appsとマッシュアップすることで補完するわけです。Salesforceはバッチ系の処理も弱く、大容量データを扱うバッチ系アプリケーションは、EC2で動かして連携するといった事例も実際にやっています。

 そんなわけでアマゾンのサービスも使っていますが、良いサービスだと思います。グーグルのサービスも良いのですが、App Engineに関してはまだ不十分なところがあります。Azureは仮想マシンの実行機能VMロールが出て初めて、本格的なプラットフォームになると思います。とりあえず製品を出して市場の声を吸収し、製品・サービスを仕上げていくのがマイクロソフトの常とう手段で、Azureも同じでしょう。VMロールの登場に期待しています。

最後に佐藤社長から見て、クラウドの意義は何でしょうか。

 クラウドは、何年かに一度起こる技術のターニングポイントです。ITベンチャーにとっては千載一遇の機会です。英雄は平時には生まれず、乱世とか革命の時代に登場します。自分が英雄になるという意味ではありませんが、変革期に会社を立ち上げられるのは、大変なチャンスだと思います。

テラスカイ 代表取締役社長
佐藤 秀哉(さとう・ひでや)氏
1987年 3月に東京理科大学情報科学科卒、同年4月に日本IBM入社。2000年に、年間最優秀営業部員に贈られるセールス・オフィサー賞受賞。01年3月にセールスフォース・ドットコム日本法人の立ち上げに参画、執行役員営業統括本部長に就任。05年4月、ザ・ヘッド社長に就任。06年4月ヘッドソリューション(現テラスカイ)を設立、代表取締役社長に就任。1963年5月生まれの47歳。

(聞き手は、中田 敦=日経コンピュータ)