「顧客企業がクラウド基盤を構築するための“痛み”を取り除く」。米マイクロソフトでサーバー製品のマーケティングを統括するボブ・ケリー氏は、こう方針を語る。施策は二つ。米HPと共同開発する「プライベートクラウド専用機」と、富士通などと共同開発する「Windows Azureアプライアンス」だ。顧客企業の利点と、開発の課題を聞いた。

(聞き手は玉置 亮太=日経コンピュータ))


米マイクロソフト コーポレート副社長 インフラストラクチャー・サーバー・マーケティング担当 ボブ・ケリー氏
米マイクロソフト
コーポレート副社長
インフラストラクチャー・サーバー・マーケティング担当
ボブ・ケリー氏

マイクロソフトは今年1月、ヒューレット・パッカード(HP)との間で、クラウドコンピューティングに関する提携を発表した(関連記事)。具体的にどんな取り組みを実施するのか?

 HPとの戦略提携は、非常にユニークな取り組みだ。まず、両社がHyper-VとSystem Centerの技術に深くコミットし、将来のプライベートクラウド構築の基盤技術として活用していく。そしてこれらの製品や技術とハードウエアを垂直統合したスタック(システムを構成する製品の層)を、両社で開発する。WindowsからSQL Serverといったマイクロソフトのソフトウエア、そしてHPのハードウエアを組み合わせた「アプライアンス」を開発する。

他のハードウエアメーカーとの間でも、Windows搭載機を開発する上では、ソフトウエアとハードウエアを組み合わせた事前検証を実施するはず。HPの提携と他メーカーとの関係の違いは何か?

 製品の設計にまで踏み込んでいることだ。HPのハードウエアを最も効率よく利用できるよう、当社のソフトにチューニングを施す。SQL Serverなどのマイクロソフト製ソフトウエアの処理性能を高めるデバイスドライバやファームウエアをHPのハードウエアに組み込んだり、専用のシステム管理機能を共同開発する。ソフトウエアとハードウエアを一体化したアプライアンスとして提供する。

 HPとマイクロソフトは、長年の協業関係にある。今回の協業の特徴は、システムを共同で設計することに加えて、特定の用途を想定した、いわゆる「ターンキー型」のサーバーシステムを開発することにある。データウエアハウスやビジネスインテリジェンス(BI)、電子メールサーバー、Hyper-Vを使った仮想化専用機などだ。特定アプリケーション向けのアプライアンスであり、仮想化ソフトやSQL Serverといったソフトウエアだけでなく、ストレージやネットワーク機器も含めて、事前に念入りに組み合わせて調整して出荷する。

 システムの運用管理のためには、両社のソフトウエア資産を組み合わせた新しい管理機能を開発することになるだろう。マイクロソフトのSystem CenterとHPのOpenViewを組み合わせ、SQL ServerとHPのストレージやハードをより深く管理するための機能を作り込んだり、性能の最適化を図ったりする。

当社のソフトウエア資産とHPのハードウエアとは、完全な補完関係にある。両社が従来にもまして深く協業することで、様々なシナリオに向けたシステムを作り出せるだろう。汎用的であることはサーバープラットフォームに求められる要件の一つ。一方でこれからは、搭載するソフトウエアを最適化した、特定シナリオ向け製品の開発も重視していく。

「SQL Serverとハードウエアの組み合わせを事前検証し、最適化を図る」とのことだが、顧客企業がバラバラに購入した場合に比べ、処理性能はどれくらい向上するのか?

 現在は設計作業の途中であり、確かな数字は言えない。もちろん大きく改善することは間違いない。少なくとも50%の性能改善は実現したいと思っている。ソフトウエアとハードウエアを両社が個別に開発して後から統合したとしても、現在実施している手法に比べて高い性能を出すのは難しいだろう。

なぜマイクロソフトとHPは、個々の製品開発から、「システム」の設計や開発、性能チューニングに踏み込むのか?

 それらの作業は、本来は顧客企業が実施するべきものではないからだ。顧客企業が望むのは、自社の業務を最適なコストと処理性能で実行できるプラットフォームだ。我々がITの専門家としてのより前面に出て、顧客に代わって検証作業を実施することで、よりよい製品を届けることができる。統合した技術スタックが重要と考える理由は、複雑化したスタック同士を顧客が組み合わせる作業の「痛み」を、少しでも取り除くためだ。

最初からマイクロソフトとHPの製品が組み合わさったシステムは、統合作業の手間は経るかもしれないが、一方で顧客の選択肢を奪うのでは?

 そうならないようにするために、我々は相互運用性を確保することにも力を入れている。ハードとソフトを垂直統合したシステム製品は、米オラクルも発表している(関連記事)。しかし我々のアプローチは、より水平的だ。つまり統合した製品としても使えるし、各スタックを顧客が選択していくこともできる。

最初の製品は、いつ出荷するのか?

 具体的な日時までは言えないが、間もなくだ。次の四半期には、何らかの成果を発表できるだろう。

「Windows Azure Appliance」について、富士通、HP、デルらとそれぞれ開発を進めているが(関連記事)、具体的にどのような仕様になるのか?

 まだ開発途上であり、詳しい仕様を話せる段階にはない。7月に発表したばかりで、まだ開発の初期段階に過ぎない。

 一つ言えるのは、HPやデル、富士通などと開発しているシステム製品には、我々のデータセンターで動いているWindows Azureと全く同じソフトウエアを搭載するということだ。マイクロソフトのデータセンターで動くWindows Azureと同じ機能、同じスケーラビリティのクラウド基盤を、顧客企業やパートナー企業の側に設置し、利用できるようになる。

元々マイクロソフトが開発したクラウド基盤であるWindows Azureを、富士通など他社が運用できるのか?

 基盤ソフトウエアの保守や更新は、マイクロソフトが完全に責任を持つ。ネットワーク経由で基盤ソフトを監視したり、更新を実施したりする。富士通などのパートナー企業は、アプリケーションの開発と保守に専念できる。

 実現に向けては、課題があるのも事実だ。例えば基盤ソフトウエアの保守や更新のタイミング。マイクロソフトが一斉に更新を実施するが、その時期が顧客企業のビジネスの繁忙期にぶつかってしまうこともあり得る。例えば年末は百貨店にとってかき入れ時だ。この時期に基盤ソフトの更新を実施してしまうと、顧客企業に迷惑がかかる恐れがある。更新を実施するタイミングを顧客企業がある程度コントロールできるようにするなど、検討事項は多い。