マイクロソフトのクラウドに対する“本気度”を伺えるのが、2011年1月に開始するCRMサービス「Dynamics CRM Online」だ。競合他社から乗り換える企業には、利用者1人当たり2万円を支払う。ソフトウエア版に先駆けてクラウド版を提供することと併せて、競合の追い上げを図る。

(聞き手は玉置 亮太=日経コンピュータ))



マイクロソフト 執行役 常務ゼネラルビジネス担当 バートランド・ローネー氏
マイクロソフト
執行役 常務
ゼネラルビジネス担当
バートランド・ローネー氏

1月に提供を開始するDynamics CRM Onlineは、ソフトウエア版と同一のソースコードを使いながら、ソフトウエア版に先駆けてクラウド版を提供する。これまでのマイクロソフトは、ソフトウエア版の次にクラウド版を投入するのが常だった。順序を逆転させた狙いは何か?

 米国事業での経験からだ。Dynamics CRM Onlineのベータ版を提供開始したのは、今年9月。英語、日本語など、8カ国語版で提供してきた。米国ではベータ版の採用企業数が当社の予測を大きく上回った。日本でも同様だ。日本では150社に上っている。目標は50社だった。これほど好評を得るとは予想以上だった。

 ソフトウエアを導入して自社内にシステムを構築する従来のやり方に比べて、クラウドならば試用や社内への展開が容易だ。試しに使ってみて、もし気に入らなければ使うのをやめればよい。ソフトウエアによるシステム構築にはないスピード感を、顧客企業は利点として感じているのではないか。

 マイクロソフトはクラウド事業への参入が遅れたと指摘する声があるが、クラウド版をまず投入し、そしてソフトウエア版という順序にしたことが、クラウドへ本気で取り組んでいることの証と思ってほしい。

クラウドだから導入や展開がスムーズなのは、セールスフォース・ドットコムなど競合企業のサービスでも同じでは?

 もちろんそうだ。ベータ版を試用する企業の数が当社の想定を上回ったのは、ユーザーインタフェースに対する抵抗が少ないことが、要因の一つだろう。Dynamics CRM OnlineはWebブラウザーのほかに、OutlookやExcelからクラウドにアクセスして、CRMシステムのデータを参照したり分析したりできる。顧客企業がこれまで使ってきたユーザーインタフェースを継続して使えることで、導入の手間を省いたり、テストをすぐに始めてシステムを迅速に展開したりしやすい。

 ハイブリッド型であることに対する安心感もあるのではないか。Dynamics CRM Onlineとソフトウエア版Dynamics CRMのソースコードは同じ。データモデルも同じだ。クラウド版を利用し始めても、将来は自社設置型のシステムへと移行するのは難しくない。この点が、顧客に支持されているのだろう。