エクスチェンジコーポレーション(東京都千代田区)は、インターネットを介して個人同士の融資を仲介するソーシャルレンディング(またはP2P融資)サービス「AQUSH(アクシュ)」の事業者。2009年12月、国内では2番目 (関連記事)にソーシャルレンディングサービスを開始した。融資の申込金額は開始から1年を待たずに10億円を突破している。同社のラッセル・カマー代表取締役社長は、ゴールドマン・サックス証券日本法人で消費者金融業界の株取引などを担当した後、2009年に現職に就いた。競合他社との差別化戦略などをカマー社長に聞いた。(聞き手は島津 忠承=日経情報ストラテジー

写真●「AQUSH(アクシュ)」を立ち上げたラッセル・カマー代表取締役社長
写真●「AQUSH(アクシュ)」を立ち上げたラッセル・カマー代表取締役社長

2009年12月のサービス開始から間もなく丸1年がたつ。現在の会員数や融資金額は。

 2010年10月末時点で、会員数は借り手と貸し手双方を合わせて3130人、融資の申込金額は12億円だ。ほとんど実績の無い市場だったことを考えれば、まずまず利用されている。

 会員の借り手と貸し手の人数の内訳は公表していないが、融資希望者は貸し手の数倍いる。ただし当社は融資の前に審査を徹底している。承認した借り手は、融資希望者の20%未満だ。

ソーシャルレンディングが日本で事業として成立すると判断した理由は。

 2つ理由がある。第1に、日本ではゼロかそれに近い金利政策が続いているため、個人投資家の投資先が限られていること。第2に、そんな金利政策の下でも、個人の資金調達先である消費者金融やカードローンの金利は、年率20%近い金利で高止まりしていたことだ。そこで借り手と貸し手の双方が納得する金利にして個人同士を結びつけようと考えた。

競合他社とのビジネスモデルの違いは。

 競合他社が特定の個人の事業やアイデアを対象に投資を募っているのに対し、当社は借り手に設定した格付けに投資してもらう仕組みを採用した。貸し手にとって利便性が高いので、当社の事業モデルのほうが優れている。

 というのも、貸し手が融資する目的はもうけることであって、借り手の投資案件にロマンを感じることではない。従って格付けで貸し倒れリスクを把握でき、それに対する金利に納得性があればよい。また、同じ格付けを持つ複数の借り手に分散投資すれば、貸し倒れのリスクを分散できる。

 借り手にとってもメリットがある。当社の審査によって上位の格付けを取得できた借り手は、使い道を細かく問われることなく資金を調達できる。貸し手を説得するための「物語作り」に煩わされずに済む。

 当社は貸し手、借り手の双方から手数料を徴収する。貸し手からは年率1.5%相当の利回りを毎月徴収する。つまり貸し手が受け取れる利子は、額面が年利10%であれば8.5%に、12%であれば10.5%になる。一方、借り手からは成立した金額の3%プラス420円をもらう。つまり10万円を借りた場合であれば3420円となる。

どのように格付けをしているのか。

 米フェア・アイザック社の「FICO(ファイコ)スコア」と呼ばれる金融機関向け信用情報のデータに、借り手の年収、家族構成、保険加入状況などの情報を加味して5段階で格付けしている。最上位の「AA」であれば、貸し倒れリスクが0.8%以下などと決まる。尺度があることで貸し手が融資をしやすくなる。

 FICOスコアはクレジットカードやローンの支払履歴や借入残高などに基づくデータで、日本の大手金融機関100社以上が利用するなど国際的に認められたものだ。これを活用することで格付けの信頼性を高めている。

これまでどのような施策で会員を増やしてきたのか。

 主にウェブでの認知度向上に努めてきた。SEO(検索エンジン最適化)を強化したり、アフィリエイトで個人ブログの運営者などの協力を得たりしてきた。

 もっとも、1年目は会員数を伸ばすことは重視しなかった。安定した利回りを得られる信頼感を築いてから、顧客の獲得に力を入れようと考えた。

 会員もサービスの質を高く評価してくれているようだ。会員の4分の1以上は、当初より金額を積み増している。投資家の投資金額は平均約30万円で、中央値でも約20万円に達した。600万円も投資している会員もいる。

2年目以降はどのような戦略を立てているのか。

 個人が企業に投資する商品など、商品ラインを拡充したい。個人間融資だけを想定してきたが、市場ニーズはもっと大きいことが判明したからだ。例えば中小企業のオーナーが借り手になっているケースがあり、事業資金として使われているようだ。こうした個人対企業、あるいは企業間の融資の仲介も手掛けられるのではないか。

 金額や会員数の見通しは言えないが、会員獲得にも力を入れる。ほかのウェブサービスを展開している企業と協業して、ソーシャルレンディングを共同で拡販する予定だ。

市場の開拓余地の大きさが認知されると、新規参入事業者が増えるのでは。2010年11月16日にSBIホールディングス傘下のSBIソーシャルレンディングも専用サイトをプレオープンした。

 競合が増えることは大いに歓迎する。プレーヤーが増えたほうがソーシャルレンディングの認知度が高まり、当社の会員獲得にも弾みがつくからだ。

 もっとも、フラッシュ・マーケティングの分野で見られるような「物まね事業者」はそう多くは登場しないと見ている。ソーシャルレンディングは見かけは単純だが、裏側の仕組みは複雑だからだ。

 セキュリティーの高い情報システムを導入したり、信用機関に登録したり、金融庁に安全性を担保する仕組みを説明したりといった作業は、決して簡単ではない。参入には相応の準備が必要だ。