2009年はプログラミング言語COBOLにとって「生誕50周年」という節目の年だった。それから1年。2010年はCOBOLにとってどのような年だったのか。Windowsやオープンシステムで動作するCOBOL開発ツールベンダーである英マイクロフォーカスのスチュアート・マギルCTOに「COBOLの今」を聞いた。

(聞き手は斉藤栄太郎=ITpro)

COBOL分野では2010年、どのような印象に残る出来事があったのか。

写真●英マイクロフォーカス CTO スチュアート・マギル氏
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 2つあった。1つは技術的にエキサイティングな出来事、もう1つは技術的にはそれほどエキサイティングとは言えないが、COBOL分野にとってとても重要と言える出来事だ。まず技術的にエキサイティングな出来事として、「クラウドにおけるCOBOL」が現実のものとなった。すなわち、クラウド環境においてCOBOLの業務アプリケーションを動かす実際のユーザーが登場したということがある。

 企業名はまだ明かせないが、米国の自動車メーカーがディーラーネットワーク向けのアプリケーションをクラウド上に実装して運用し始めている。クラウド化することで、大幅なコスト削減とサービス提供までの時間短縮を実現できたという。単純な話に聞こえるかもしれないが、COBOLが長年メインフレームで基幹アプリケーションを動かすために使われてきたことを考えると、技術的にはとてもチャレンジングなことだ。

 もう1つは、メインフレームなど専用ハードウエア上で専用のCOBOLアプリケーションを動かすという環境から、オープンプラットフォームへ移行する「モダナイゼーション」(近代化)のスケールの急拡大だ。2009年に来日したときのモダナイゼーションの最大事例は、500MIPS(million instructions per second:100万命令/秒)の処理能力が必要なアプリケーションを移行したというものだった。

 しかし、今年は既に最大1万5000MIPSという事例が出てきている。現在我々が話をしているユーザーは3万5000MIPSだ。このように、非常に大規模なアプリケーションでもモダナイゼーションが始まった。これが2010年の世界的に大きなトレンドだ。クラウドへの移行とモダナイゼーション。この2つの流れは当分続くだろう。

AndroidやiPhone/iPadなどモバイルデバイスが普及し、企業にもどんどん入ってきている。こうしたユーザー環境の変化にCOBOLはどう対応するのか。

 実は、我々の開発ツールは、2011年中にAndroidやiPhone/iPadなどのモバイルデバイス向けのアプリケーション開発にも対応する予定となっている。つまり、COBOLで書かれた業務アプリケーションがこうしたモバイルデバイス上で動くようになるということだ。アーリーアダプタ向けに2011年のなるべく早い時期に提供する。

 COBOLの業務アプリケーションがモバイルデバイス上で動作すると聞くと驚く人がいるかもしれないが、驚くには値しない。私はIBM PCが発売されたころ(1981年)からこの分野で仕事をしているが、当時利用できる最大メモリー容量はわずか256Kバイトだった。今のiPadなら何と64Gバイトだ(笑)。ほぼどんなCOBOLアプリケーションでもモバイルデバイスに乗せられる。キャパシティ(メモリーやストレージの容量)は制約にならない。

 制約があるとすれば、それは「ポータビリティ」(可搬性:ここでは移行や移植の容易さという意味で利用)だ。その点、COBOLは言語自体が比較的シンプルという点でほかの言語よりも有利である。わが社の開発ツールを使えば、既存のCOBOL資産をほとんどコードの手直しなしで移植できる。実際に、3270ターミナルエミュレーターを一切コード変更なしでiPadに移植できた。

 ただし、UI(ユーザーインタフェース)の作り込みに関しては、さすがにどの端末でも手直しなしでというわけにはいかない。現状モバイル端末ごとに大きく異なるため、こちらのポータビリティに関しては、これから手がけていかなければならない。

 モバイルデバイスに乗ることで、COBOLの使われ方そのものが大きく変わる。COBOLアプリケーションのビジネスロジックをモバイルデバイスで気軽に使えるようになれば、これまでCOBOLを避けていたベンダーもマッシュアップ的に自社のアプリに組み込んで使うようになるだろう。これは非常にエキサイティングなことだ。

 もちろん、開発ツールが出てきたからといってすぐにCOBOLアプリケーションが製品としてモバイルデバイス向けに登場するということはないだろう。調査や研究のために通常1年間くらいはタイムラグがある。