マルチメディア放送の成功へ、「みんなの放送局」を実現したい

総務省による開設計画の認定を受けて、マルチメディア放送(mmbi)は、全国向け「携帯端末向けマルチメディア放送」の受託事業を2012年4月に開始する。mmbiの二木社長に、今後に向けた抱負などを聞いた。

約束した数字はキッチリと守りたい

メディアフロージャパン企画と激しい論争を経て、開設計画が認定された。この間の経緯の評価は。

 正直ほっとしている。その一方で、メディアフロージャパン企画とあれだけの議論を繰り広げたこともあり、サービスの実現に向けて重い責任を感じている。サービスエリアの確保はもちろんのこと、例えば端末の普及台数や設備投資の額などについて、明確に数字で示した。それをしっかり実現していかなければならないという責任を背負っていると考えている。

 今回の認定を受けるまでに何度も公開説明会やヒアリングが繰り返されたが、メリットも多数あったと捉えている。第1に、マルチメディア放送の認知度が上がった。互いにいい点や課題を指摘しあい、それが様々な形で報道された。最後までどちらに軍配が上がるかわからず、マルチメディア放送というものを多くの人に興味を持って見てもらえるキッカケになった。第2は、討論の最初の段階から、私どもだとNTTドコモの社長が出てきて議論し、互いにグループとしてこの業務に取り組むという姿勢を示したことである。例えば、5年後に受信端末5000万台普及という数字は、自然任せでは必ずしも達成できる数字ではない。NTTドコモの協力が不可欠であり、そういう体制にあると強くアピールできた。

 互いの議論の中で、私どもの強みを再認識できたし、補強すべき点もよく分かってきた。特にエリアについては大いに論争になったので、議論になったポイントを意識しながらいいシステムを作り上げていく必要があるだろう。個別にはいろいろ課題は出てくるだろうが、「あのとき言っていたことと、出来上がったインフラが違う」ということは絶対に避けないといけない。

100億円の増資について、どういう状況なのか。

 受託事業は、基本的に放送設備はリースでまかなう予定だが、それ以外の投資や各種の経費を含めて、運転資金として100億円程度必要と判断している。これについては、NTTドコモから引き受けに合意する旨の念書を受領済みであることは公開ヒアリングなどでも説明したとおりで、当初はそうなるだろうと考えている。そのあと一緒に受託事業に参画してもらえる事業者が出てきた場合は、出資比率も含めて検討することになろう。

 なお、mmbiは委託放送事業にも参画したいと考えていて手を挙げる計画である。現行の法制度は別の法人格であることが求められており、受託放送および委託放送事業を行う事業者をどういう体制で整備していくのかは、現在検討中である。

ソフトバンクやKDDIにアプローチしているのか。

 ソフトバンクは出資も含めて考えたいとのスタンスだと聞いているが、まだ具体的な交渉は始まっていない。KDDIにも一緒に事業を展開しないかと提案はしている。ただし、受託事業者が決まったばかりでもあり、回答は今のところまだいただいていない。

コンテンツ、料金、電波、端末、レコメンド

2009年3月にサービスを終了した衛星移動体放送の「モバHO!」とどう違うのか、という指摘もある。

 端末普及、エリア、コンテンツ、価格という事業を推進する上で根幹となる四つの点で状況は異なる。例えば端末で言えば、モバHO!では専用端末を作る必要があり、普及という課題があった。私たちは、コンテンツと料金、エリアにおける電波のよしあし、端末の普及という四つのポイントが上手く回って、初めてビジネスとして成功の可能性が見えてくると考えている。端末については、少なくともNTTドコモとソフトバンクモバイルの両社を合わせて5年後5000万台という数字をコミットメントしてもらている。料金については、我々が委託放送事業に参入できれば、例えば基本料を300円程度とし有料のプレミアムコンテンツを組み合わせるなどして、最初のハードルを低くしようと考えている。

 コンテンツもこのサービスならではの付加価値が必要だ。例えば携帯視聴に合わせて、あらすじのような短尺のものを用意するとか、放送と通信との連携を図るなどである。通信との連携では、ショッピング番組を見ていてそのまま発注できるとか、ドラマを見ながらそのままTwitterやSNSで感想を共有するなどである。またファイルキャスティングという仕組みもある。エリアについても大規模局を導入するなど工夫し、できるだけ少ない投資で受信環境を整備する。簡単なビジネスではないことは承知しているが、モバHO!のときとは環境が違う。