キーエンス子会社で、製造業や建設業のエンジニア向けに製品情報の紹介サイトを運営するイプロス(東京都港区)。サイトのページビューは2010年10月時点で月間800万に達する。また、製品情報を登録する企業数は製造業向けで1万5000社、建設業向けで5000社と、同種のサイトでは大手だ。自社の製品情報を目立ちやすい位置に配置したい企業から、月額3万円からの会費を徴収することで主に売り上げを得ている。2009年度の売上高は5億3000万円である。

 同社は2010年11月1日、製品情報の紹介サイトを全面的に刷新した。内部のシステムを自前のものからインターネットイニシアティブのクラウドサービスに切り替えた。同時に、お薦めの商品を会員のエンジニアに提案するリコメンド機能を稼働させた。リコメンドはB to C(企業対個人)のサイトでは一般的な機能の1つだが、同社によるとエンジニア向けの製品情報が登録されたサイトでは珍しいという。岡田登志夫代表取締役社長に、リコメンド機能の活用法やクラウドを採用した狙いを聞いた。(聞き手は島津 忠承=日経情報ストラテジー

写真●イプロスの岡田登志夫代表取締役社長
写真●イプロスの岡田登志夫代表取締役社長

製造業は2008年秋に発生したリーマンショック以後、投資を手控えるなどの対応を余儀なくされてきた。イプロスでもサイトの会員が減少するなどの影響は無かったのか。

 幸いなことに当社にとってはむしろプラスに働いた。2008年度、2009年度とも前年度比1.5倍のペースで会員が増え、現在は150万人に達している。リーマン・ショックによって体制を抜本的に見直さざるを得なくなった企業の間で、以前よりも割安な部品や、新しい製品を探すなどのニーズが強まったためだろう。最近は当社から新規加入を働きかけなくても、会員が会員を呼ぶ流れが出来上がっていると感じている。

今回、リコメンド機能を稼働させた狙いは。

 業界の枠組みを越えて役に立つ製品をエンジニアに推奨するためだ。エンジニアに気づきを提供できれば、サイトをより積極的に活用してもらえ、利用頻度が高まる。サイトをきっかけにした商取引も活性化するだろう。トランザクションごとに手数料を徴収しているわけではないので、当社の収入には直結しない。それでも有料で情報を掲載する企業が増えるなどの効果が表れると期待している。

 クラゲの発光体を発見したことが、後に生命科学の分野に応用されて下村脩博士がノーベル化学賞を受賞した。このようにイノベーションは異分野の技術が組み合わさった時こそ生まれやすい。当社のサイトでも、食品業界のエンジニアに半導体業界向けの製品が役立つなどのケースがよく見られる。もっとも、このような分野を越えた製品提案を人手でするのは限界がある。そこでIT(情報技術)を活用したリコメンドで実現できればと考えた。

リコメンド機能は、主に以前の購買履歴に基づいて推奨するものが多い。結果的に購入した製品と同一のシリーズばかりを推奨するなど、利用者に気づきをもたらす新しい提案はされにくいとの見方がある。岡田社長も以前はリコメンドにあまり積極的ではなかったが( 関連記事)。

 B to Cの購買行動ではその通りだ。個人の購買はライフスタイルに大きく左右され、合理性を見いだしにくい。このため気づきをもたらすような推奨がなかなか難しいようだ。

 一方、B to Bの環境では利用者が探したい製品が明確な場合がほとんどだ。合理的な提案がしやすいことが分かってきたため、導入を決めた。

 例えばERP(統合基幹業務)パッケージを閲覧していたエンジニアが、メカトロ分野にも興味を示すとは考えにくい。そこで「この製品のページを閲覧する会員はこの製品群に関心を持つことが多い」いう組み合わせをあらかじめ用意しておく。この組み合わせの情報を中核に据えたうえで、個々の会員の閲覧履歴などの情報を付加して、リコメンド機能を稼働させている。

クラウドで導入費用を10分の1に抑える

リコメンド機能を含め、コンテンツ関連の情報システムをすべてクラウドに切り替えた。その理由は。

 やはり初期費用の安さが大きい。今回はコンテンツ周りの情報システムをほぼすべて切り替えており、同じ規模のシステムを自前で導入する際と比べて10分の1のコストで済んだ。毎月の費用はサイト運営がある程度落ち着くまで分からないものの、自前で運用するよりは割安になると見込んでいる。また、アクセスが突発的に増加した際などに、柔軟にシステムを増強できる拡張性の点でも評価した。

 クラウドには2年ほど前から関心を持っていたが、枯れた技術ではないため安定性に不安があった。しかし会員のエンジニアが増加したことで、システムを増強する必要性があると判断した。そこで通信事業者の支援をしっかりと受けられる体制を整えたうえで、クラウドの採用を決めた。