マイクロソフトは2010年11月、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向けサーバーOSの新版「Windows HPC Server 2008 R2」の出荷を開始した。Windows HPC Server 2008 R2の開発を指揮する米Microsoftジェネラル マネージャ テクニカルコンピューティング担当のキリル・ファエノフ氏は、「ついにLinuxを上回るパフォーマンスを実現した」と強調する。新製品の出荷に合わせて来日したファエノフ氏に、新OSの強化点を聞いた。

(聞き手は根本 浩之、羽野 三千世=ITpro



Windows HPC Server 2008 R2は、2006年に発売した「Windows Compute Cluster Server 2003」、2008年リリースの「Windows HPC Server 2008」に継ぐ3代目のHPC向けOSとなる。HPC市場において3代目OSをどう位置づけているか?

写真●米Microsoft ジェネラル マネージャ テクニカルコンピューティング担当のキリル・ファエノフ氏
写真●米Microsoft ジェネラル マネージャ テクニカルコンピューティング担当のキリル・ファエノフ氏

 Windows HPC Server 2008 R2は、CPUだけでなくグラフィック処理用のGPUを演算用プロセッサとして使用可能にすることで、より高度な演算処理を実現した。演算性能を比較すると、旧版のWindows HPC Server 2008ではLinux系システムにようやくキャッチアップしたという段階だった。だが、今回リリースした新版は演算性能とコスト効率の両面で、Linuxを上回ったと考えている。

 具体的なベンチマークなどの性能値は、11月中旬に発表される2010年下半期版のスーパーコンピュータ性能の世界ランキング「TOP500」で明らかになるので、それまで待ってほしい。

Windows HPC Server 2008 R2の特徴を教えてほしい。

 最大の特徴は「拡張性」だ。新OSでは、HPCのインフラをオンデマンドで拡張できる。まず、ネットワーク上にあるWindows 7搭載パソコンのCPUを、HPCクラスタの一部として利用できる。Windows 7パソコンに専用のクライアントパックをインストールすることで、Windows HPC Server 2008 R2との連携が可能になる。例えば、従業員がパソコンを使っていない夜間に、社内の何千台ものWindows 7パソコンをHPCのリソースとして有効活用できるようになる。

 それから、クラウドサービスの「Windows Azure」とも連携できるようにする。具体的には、間もなく提供するWindows HPC Server 2008 R2のサービスパック1(SP1)の実装となるが、HPCクラスタの一部としてAzureのリソースを利用可能にする。これにより、必要なときに必要な分だけ、クラウドのリソースを使って演算処理をすることができる。

Windows 7パソコンの電源が切れている場合や性能にバラつきがある場合でも、HPCクラスタとして利用できるのか。

 演算処理にWindows 7パソコンのCPUを利用する際は、マシンの電源を入れておく必要がある。実際の運用では、運用管理製品である「System Center」の電源管理機能と組み合わせて、必要なときに必要なマシンにだけリモートで電源を投入することになるだろう。

 社内で使っているパソコンの性能は均一でないのは事実だ。当社では、高度な演算処理には専用のHPCサーバーやAzureのリソースを利用し、それほど要求が高くない処理に割り当てるリソースとして社内のWindows 7マシンを使うというシナリオを想定している。

Windows HPC Server 2008 R2ではExcel 2010との連携を強化したということだが、それについて教えてほしい。

写真●米Microsoft ジェネラル マネージャ テクニカルコンピューティング担当のキリル・ファエノフ氏

 Excel 2010は、デフォルトで「HPC Services for Excel 2010」のメニューを搭載している。このメニューでは、Excelシートの演算をWindows HPC Server 2008 R2で実行するので、複雑な演算が含まれるシートでも高速に処理できる。ある保険会社の事例では、100ノードのWindows Server 2008 R2クラスタとExcel 2010を組み合わせて使うことで、これまで10時間かかっていた処理を2分に短縮できた。

 HPCでの計算のために特別なシートを作成する必要はなく、通常のExcelシートをそのまま使えるのことも大きなユーザーメリットと考える。使い慣れたExcelで、HPCを利用できるので、HPCユーザーの裾野を広げることにつながるだろう。

Windows HPC Server 2008 R2がターゲットとする業種はどこか?

 旧版のWindows HPC Server 2008は、教育機関、金融業界、製造業などに導入実績がある。新版はコスト効率だけでなくパフォーマンスも高く、数ノードクラスの中小規模環境から数百ノード以上の大規模環境まで対応するので、より多くの企業でお使いいただけるだろう。

 何より、Windows HPC Server 2008 R2は、普段の業務で使っているWindows OSのユーザーインターフェースで操作できる。Active Directory、SharePoint Serverといった企業の既存資産とも連携する。アプリケーションもエンジニアが使い慣れたVisual Studioで開発できる。初めてHPCの導入を検討しているユーザーには最適だ。