米国をはじめ世界各地でネットワークサービスを展開する米ベライゾン・ビジネスは、グローバルにおけるサービスおよびサービスインフラのIPv6対応を進めている。グローバルでIPv6の実装を管轄しているプロダクトマネージャーのシュミドラップ氏と、IP MPLSのイーサネットサービスのリーダーで個人/企業向けサービスのIPv6プロジェクトを担当するチーフエンジニアのビタール氏に状況を聞いた。

(聞き手は山崎 洋一=日経NETWORK

米ベライゾン・ビジネスのウィリアム・シュミドラップ氏
米ベライゾン・ビジネス プロダクトマネージャーのウィリアム・シュミドラップ氏
タイトル2
米ベライゾン・ビジネス チーフエンジニアのナビル・ビタール氏

世界各地でネットワークサービスを提供している。各地域でのIPv6実装状況は。

 米国では、2007年から企業向けにサービスを展開している。提供形態は大きく四つある。(1)T1から10GEまで(1.5Mビット/秒~10Gビット/秒)のIPv6専用アクセス、(2)T1から10GEまでのIPv4ネイティブとIPv6ネイティブによるデュアルスタックのアクセス、(3)IPトンネルを介したアクセス、(4)GRE(Generic Routing Encapsulation)トンネルを介したアクセス---である。

 コンシューマ向けには、「FiOS」という光ファイバーを使ったサービスとADSLサービスを提供しているが、どちらもIPv6の商用サービスは開始していない。6カ月ほど前に、FiOSでIPv6とIPv4のデュアルスタック接続によるIPv6アクセスのトライアルを実施し、成功裡に終わった。今後はFiOSのIPv6対応計画を進めていくが、サービス開始時期はまだ公表していない。

 EMEA(欧州、中東、アフリカ)とAPAC(アジア太平洋)では、GREトンネルを利用した方法でIPv6接続を提供している。これらの地域では、本番のサービスインフラに対して、IPv6のネイティブ接続とGREトンネルの両方を使えるように実装を進めている。作業は2011年第1四半期に完了する予定だ。カナダと南米でも、同じスケジュールで実装を進めている。

ユーザー企業やエンドユーザーにIPv6サービスを提供するには、通信事業者のバックボーンネットワークもIPv6に対応しなければならない。これはどの程度進んでいるか。

 バックボーンネットワークのIPv6対応は進行中で、2010年の第3ないし第4四半期に完了する予定だ。バックボーンネットワークも、サービスと同様にグローバルでIPv6に対応させる。ユーザーへのIPv6サービス提供を開始するのは2011年第1四半期の予定なので、それまでにバックボーンの対応を終えていなくてはならない。

IPv6の普及には二つのピーク

IPv6はいつごろから、どの分野で本格的に普及するとみているのか。

 二つの段階、もしくは二つのピークがあると考えている。一つめの段階あるいはピークは、IANA(Internet Assigned Numbers Authority)が世界に五つあるRIR(Regional Internet Registry)に配布するIPv4アドレスの在庫が枯渇したとき。これは2011年になるだろう。二つめの段階あるいはピークは、五つあるRIRのいずれかで最初にIPv4アドレスの在庫が底をついたときだ。

 IPv6をまず積極的に採用するのは、ワイヤレスの事業者だろう。ワイヤレスのデータ通信サービスでは、多数の「IPアドレスを割り当てられるデバイス」をサポートしなければならないからだ。特に4G(第4世代携帯電話)になったときに必要性が高まるとみている。

IPv4には、トランジット(上位のプロバイダーからインターネット全体の経路情報を教えてもらってパケットを上位プロバイダーに中継してもらう方法)を買わず、全インターネットへ接続するための経路情報を確保できる「Tier1プロバイダー」という概念がある。Tier1プロバイダーはIPv6にもあるのか。

 IPv6になっても、Tier1プロバイダーは存在すると我々は考えている。プロバイダーの分類は、IPv4とIPv6で同じプロセスになると予想されるからだ。

 ベライゾン・ビジネスはIPv6でもTier1プロバイダーと称しているか? 答えはイエス。当社はIPv4でもIPv6でも、他のプロバイダーにフルルートを提供できる。ただ、IPv4とIPv6でTier1プロバイダーの顔ぶれが同じかどうかについては、何ともいえない。

ネットワークサービスがIPv6に対応すると、ユーザーが受けるメリットはIPv4と比べて変わるのか。

 当社は、IPv6で提供する機能をIPv4で提供する機能と同等に保っていくことが重要かつ不可欠だと考えている。これはバックボーンネットワークも顧客向けのサービスも同じだ。

 ユーザー企業には、インフラやアプリケーション、ビジネスコンテンツをチェックすることを勧める。そのうえで、IPv6に対応するために何が必要かという要件を固めて、内部のインフラを刷新するロードマップあるいは全体的な採用計画を立てていくことが必要だと思う。

補足
インタビュー後の現地時間9月2日、米ベライゾン・ビジネスは、IPv4からIPv6に移行する際の注意点をまとめたプレスリリースを発行した(英文のみ)。