[後編]丸投げせずノウハウを蓄積 国内にM&Aの相手はいない

動画配信のUstreamなど品質はともかく手軽に利用できるサービスが企業にも普及しつつあります。対抗策をお考えですか。

 確かに最近は、いろいろな技術やサービスがあって、お客様が品質と価格でいろいろな選択をされるのは避けられないことです。その意味で、当社もセカンドブランドを考えざるを得ない。実際、グループ会社にそうした位置付けのクラウドサービスを準備をさせており、近く公表できるでしょう。

 今までの当社のカルチャーでは、まず企業向けに一番良いサービスを作った上で、少しずつ汎用的なものを出すといった発想でした。ところが、グーグルなどは全く逆のアプローチです。当社も今後、発想を変えることが必要になってくるのかもしれません。当社の営業部隊は、大企業向けにカスタマイズすることを前提に営業しています。クラウド時代に同じ営業の仕方でよいかどうかは、これからの課題です。

ソリューション事業では、ITベンダーと協業してSIやアウトソーシングを手がけてきました。今後、パブリッククラウド的なサービスに軸足を移していくのですか。

有馬 彰(ありま・あきら)氏
写真:陶山 勉

 欲張りなのですが、従来サービスの延長線上のプライベートクラウドとパブリッククラウドの両方をやりたいと考えています。

 ご指摘の通り、自らのリソースがない領域は今まで、外部のITベンダーにお願いしてきました。しかし、こうしたやり方をずっと続けていても、当社にノウハウや知恵を蓄積できないという反省もあります。

 もちろん、NTTコム本体で何でもやるというのは無理なので、NTTファネットシステムズやNTT Com チェオといったグループ会社をバリューチェーンに入れようとしています。すべて外部のITベンダーに丸投げするのではなく、グループ会社が少しでも現場の仕事に取り組んでいく形にしていきたいと思っています。

開発力のあるITベンダーを買収することはあり得ますか。

 あまり候補者がいないのですよ。皆さん、ポジショニングがきっちり決まって、買いたくても買える企業はないという感じです。ただ海外ベンダーについては、今まで当社が取り組めていなかったレイヤーではM&Aをやります。

 例えば、最近買収したシンガポ ールのエメリオグローブソフトはITアウトソーシング会社で、アジア各国でビジネスをやっています。ビジネスに国境がなくなってきていますので、そういうリソースを海外に求めることは、今後も当然あり得ることです。

NTTデータとの合併はない

NTTデータとはすでにクラウドで一部連携されていますが、今後より踏み込んだ連携や合併を検討する可能性はありますか。

 もちろん、NTTデータとは連携しようということで、いろいろと取り組んでいます。ただ当社の場合はアプリケーションフリーで、ITベンダーとはどことでも一緒にやる方針です。NTTデータもネットワークフリーでなければならず、NTTしか使わないのではSIができないのは確かです。

 これは、ビジネスモデルとして完全に垂直統合がいいのか、水平分業してそれぞれフリーでやっていくのがいいのかという判断です。今のところ、両社が一緒になるのは、お互いの得にはならないと思いますよ。

最近、「光の道構想」など情報通信政策の議論が再び活発になってきています。政策面で国に要望することはありますか。

 当社のビジネスで言うと、今は基本的に規制がありません。ただ著作権の問題などコンテンツ流通で、まだやりにくい面があります。新しいビジネスに取り組めるよう、多くのベンチャーが出てこれるよう、新しいICT環境に見合った仕組みにしてもらえればと思います。

NTTコミュニケーションズ 代表取締役社長
有馬 彰(ありま・あきら)氏
1973年3月、一橋大学商学部卒業。同年4月、日本電信電話公社(現NTT)入社。99年7月に日本電信電話(NTT)第一部門担当部長。2002年6月に東日本電信電話(NTT東日本)取締役 企画部長、03年4月に同社の取締役 経営企画部長。05年6月に日本電信電話の取締役。07年6月にNTTコミュニケーションズの代表取締役副社長 ネットビジネス事業本部長。10年6月より現職。1949年8月生まれの60歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)