クラウド時代を迎え、通信とITの垣根は最終的に消滅しつつある。そうしたなか、従来の通信中心のビジネスモデルからの脱却を図るNTTコミュニケーションズ(NTTコム)は、通信事業で培ったグローバル対応力を武器にクラウドサービスを新事業の柱に据える。今年6月に社長に就任した有馬彰氏に事業戦略を聞いた。
御社は「事業ビジョン2010」を掲げ、2010年に向け新たなビジネスモデルの確立を目指してきました。新社長としての今後の取り組みをお聞かせください。
基本的には、「事業ビジョン2010」の事業の方向感を踏襲してやっていきます。具体的には、新しい分野を開拓するのが当社のミッションですから、まずクラウドも含めた法人向けのシステムソリューション事業を強化します。さらにグローバルなICT事業、コンシューマー向けのネットビジネス事業を拡大していきます。
今のところ当社はネットワークに依存した財務構造です。まだ収入の40%以上、利益の約8割は電話からです。国内でのネットワーク収入が減少するのは避けられませんし、競争もどんどん厳しくなっています。電話では年率8%か9%くらいで減収が続いています。財務基盤を確保するという意味においても、三つの事業をいかに拡大するかがカギなのです。
2009年度決算では、肝心のソリューション収入が減少しています。景気の影響が大きいと思いますが、今後の展望も含めどのように分析されていますか。
ソリューション収入は対前年度比で100億円くらい減収です。減収は初めてですが、やはりリーマン・ショック以降、お客様がシステム投資を控えたほか、値下げ要望も数多くあり、非常に厳しい状況でした。2010年度は2009年度に減った分を取り返す計画ですが、お客様の購買マインドはそんなに明るくなったという感じはなく、依然として厳しいですね。
もちろん、電話や専用線といったネットワーク収入の減少は、それをさらに上回っています。お客様が、より安い回線に移っているのです。ネットワーク事業は非常に厳しい環境にあります。
カニバリゼーションは覚悟の上
そうした状況のなかで、法人向けのシステムソリューションをどのように強化していくのですか。
やはりクラウドです。お客様もクラウドに対して強い関心を寄せていますので、クラウドベースのサービスを提供していきます。
まず「BizCITY」というブランドで、メニューを取りそろえました。グローバルには「Bizホスティング グローバル」という名称で、欧米、東南アジアの3極のデータセンターで、統一的なサービスを提供していきます。ラインアップがそろいましたので、これをいかに拡大していくかが、最も重点な課題になると思います。
当社のビジネスのレイヤーは、基本的にはクラウドのキャパシティーをお使いいただくというところです。BizCITYではBizメールなどのコミュニケーション系のアプリケーションは自前で提供しますが、それ以外のアプリケーションはITベンダーと連携して提供していくのが基本です。お客様の要望に応じてITベンダーと組むことになると思います。
Bizメールと言えば、安い料金設定に驚きました。グーグル対抗だとしても、御社の既存サービスも食ってしまいそうです。
本当に多くの引き合いがあります。万単位のIDが欲しいといった、想定より大きな企業からも引き合いをいただいており、対応が追いつかないほどです。既存サービスとカニバリゼーションが起こるのは致し方ないことで、やはりお客様の望まれるものを出していく必要があります。既存のサービスだけでは、シュリンクするだけでしょうから。
ITベンダーもクラウド事業を強化する一環で、データセンターをはじめ、ネットワークまわりのサービスにも力を入れ始めています。ビジネスが似通ってくるなかで、勝算はありますか。
確かに通信とITとの境目はなくなりつつあります。それに、クラウド事業は通信事業のビジネスモデルに似ているのです。通信事業はネットワークに先行投資をして、後でお客様に使っていただいて回収するというモデルですが、クラウド事業も同じです。
当社のサービスはグローバルに対応しています。25カ国・地域、67都市に拠点を持ち、海外の社員数は約4700人になりました。情報システムをグローバル化したい日本企業も多いので、当社の強みを出していけるでしょう。
有馬 彰(ありま・あきら)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)