前社長の辞任とその後の騒動に揺れる富士通だが、業績は堅調だ。これまでの構造改革が功を奏し、今後は売り上げを追う攻めの経営が利益につながる。「日本発の真のグローバルICTカンパニーになる」と宣言する山本正已社長に、海外展開とクラウド事業を核にした事業戦略を聞いた。目指すはIBMやHPと世界で戦うグローバル企業だ。
野副州旦元社長の辞任やその後の騒動について、ガバナンス上の問題などが指摘されました。新社長としてどうお考えですか。
まず野副氏の辞任に至るまでのプロセスですが、行動規範に照らして、社長として適性に問題があると判断し、執行を監督するべき取締役会で協議しました。いろいろな人の意見も聞いて、取締役会のメンバーが執行の代表者に不適切であると言った。私は、ガバナンスに問題はないし、正しい方向だったと確信しています。
富士通が反省しなければいけないのは、病気だけを辞任理由にして発表してしまったことです。ただ、辞任した人の今後や風評被害も考えた結果です。あの時点での判断は難しかったと思います。
東証のシステムをアジアに
2009年度決算では売上高4兆6795億円、対前年度比0.3%減。営業利益943億円、同37.2%増ですね。数字をどう評価されていますか。また、2011年度の営業利益2500億円といった目標の達成は可能ですか。
2009年度については、事前には営業利益で900億円と予想していました。それが上ぶれしたことは、評価に値すると思っています。我々がやってきた構造改革がうまく機能した結果です。
2010年度は営業利益2000億円を目指すと言ってきましたが、クラウド関係投資で償却が増えましたので、今回1850億円を公表値としました。ただ内部的には2000億円をあきらめたわけではありません。2011年度に売上高5兆円、営業利益2500億円にする目標についても、実現に向け着々と準備を進めています。
その施策ですが、一つめはグロ ーバル展開を加速するということです。富士通のグローバルビジネスはマルチカルチャーだったのです。欧米にもともと別々の会社があって、それが富士通になった。それぞれが独立してやってきたのを、この1~2年かけて、ワン富士通化を進めてきました。
海外に出たお客様に対して、我々は日本と同じビジネスモデルを中国や東南アジアを含め海外で展開する体制を整えてきました。日本で培ったソリューションの海外展開も考えます。「日本発の真のグローバルICTカンパニーになる」というのが目標です。
二つめとして、クラウドコンピューティングための環境をようやく整備できました。富士通はお客様と一緒にソリューションを作ってきたので、お客様がクラウド環境に移る際に、どうやったほうがいいかを知っています。既存のシステムを守っていかなきゃいけないところ、クラウドに移行するところの区別が重要です。我々はハイブリッド化と言っていますけど、マルチベンダーサポートも含め、そのための準備もできています。
最も華々しいのはパブリッククラウドですが、富士通も「SOP(サ ービス指向プラットフォーム)」と呼ぶ基盤を使って5月から試行サービスを始めました。10月からは商用サービスを始めます。数年後には、パブリッククラウドだけで年間1000億円のビジネスになると思っています。
強調しておきたいのは、過去の構造改革により、富士通のなかで赤字のビジネスはなくなったということです。そのため今後、売り上げが伸びれば、伸びた分だけ利益も出る構造になっています。
ソリューションの海外展開について、具体的な話はありますか。例えば東京証券取引所は新株式売買システムを海外でも使ってもらいたい意向ですね。富士通としても売り込んでいかれますか。
もちろんです。ただ、あのシステムはアジアなどの取引所には大きすぎるのですよ。ミニ版を考えないといけない。東証の了解を得て、ミニ版を海外で提案していきたいですね。東証からも、応援すると言っていただいています。それ以外にも、日本で作ったシステムをパッケージ化して展開できると思っています。具体的には、電子カルテシステムを中国に売り込もうとしています。
世界に通用するスパコンは必要
グローバルではIBMやHPの売り上げは、富士通の2倍以上です。彼らと肩を並べる規模の企業なる意気込みはありますか。
当然、肩を並べようと思っています。大事なのはグローバルであるということです。日本は市場としては小さいですから、我々がグローバルに行動できるかどうかによって、HPやIBMを射程内に入れられるかが決まるでしょう。
富士通が他社と違うのは、垂直統合型のビジネスモデルを追求していることです。技術をベースにすべてを考えている。それが強みです。ソフトやサービスだけでなく、半導体やパソコン、携帯電話も含めた垂直統合がクラウド時代では重要だと思っています。
垂直統合と言っても、もちろん抜けはあります。補完のためのM&Aやアライアンスもやっていかなきゃいけない。SPARCやミドルウエアでのオラクルとの連携もその一環ですし、クラウド関連の新興企業に対するM&Aもあり得ます。顧客ベースを広げるためのM&Aもやる必要がある。今の富士通はキャッシュフローが良くなっており、資金面でM&Aを躊躇することはありません。
山本 正已(やまもと・まさみ)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)