クラウドの台頭、モバイルの普及などを背景として、今後、企業にはどのようなICT環境が必要になるのか。いま優先すべき事項は何か。グローバルな案件を含めて、経営コンサルティング、システムインテグレーションの豊富な経験を持つアクセンチュアの程社長に聞いた。
アウトソーシング事業が好調のようだ。
アウトソーシング事業は2ケタ成長を続けている。なかでも最近は、欧州、アジア、アフリカ、中近東までのカバレッジを考えている企業からの問い合わせが増えている。
ただ、アクセンチュアが提供しようとしているのは、企業の「トランスフォーメーション」(変革)の実現。だから経営コンサルティングも重要だ。現場を支える仕組みとして各ユーザーに最適なものを提供するために、テクノロジーサービス(システムインテグレーション)にも注力している。
企業のICT投資自体はどんな傾向にあるか。
まだまだ厳しい。それでもようやく、IFRS(国際会計基準)対応とか、成長領域の展開とか、一部で投資意欲が戻ってきた。成長領域の例を挙げれば、海外で営業システムや代理店システムを作りたいといった具合だ。以前に比べると、期間は半分、コストは3分の1でなど、厳しい条件は付くが、それでも投資はするようになってきた。
企業のICT関連の取り組みとして、これから何が重要になるか。
5年くらい先、中長期な視点でいうと、クラウドサービスやネットワーク技術を駆使して、伸縮自在(エラスティック)な組織を支える基盤を作ることだ。つまり、クラウド的な発想で企業を作る。
国内の各市場は、これからもまだ統廃合が進むはずだ。だからどの企業も、海外展開(グローバリゼーション)や新ビジネスの創造に取り組まざるを得ない。実際、新ビジネスでは、医療・環境といった新分野に進出する企業や、業界横断的なサービス提供を試みる企業が出てきている。
こういう状況に対応していくには、伸びるときは速やかに伸びて、ショックが来たときはさっと縮めるような組織にする必要がある。この柔軟性を担保するのがICTでありクラウドサービスだ。すぐにスケールアップするには外にあるリソースを使えばいいし、縮む時もすぐにリソースを手放せる。例えば欧州からアジアにシフトしようといった場合でも、素早く対応できる。
今後、様々な情報を収集・分析しなければならなくなることもポイントといえる。今、コンシューマーがたくさんの情報を持っている。そしてこれからは、スマートグリッドなどの取り組みによって、社会インフラがたくさん情報を持つようになる。例えば製造業や流通業などは、マーケティングの観点を含め、こうした情報を収集・分析する必要に迫られる。そして、膨大な情報量があるところにはクラウドがフィットする。こうした環境に迅速かつ柔軟に対応していくことが、これからのCIOの使命といっていいだろう。
そういう環境を作れるということは、企業がネットワークをうまく活用できるようになってきたということか。
そうだ。ネットワークの利活用は着実に進んでいる。そしてこれから、もっといろいろな端末が増え、利活用が進展するだろう。
大事なのはモビリティーとコラボレーショ技術だ。エラスティックな環境を作るには欠かせない。
具体的には、企業の情報の集め方、伝え方として、いまコンシューマーの間に広がっているソーシャルネットワークと同様の発想が必要になる。実際に当社でも、そういう発想でリクルーティングしている。
無線LAN端末ならどこででもネット接続できるモバイルルーターのような仕組みも登場し、利便性はますます高まっている。会議などの進め方も変わるはずだ。iPadライクな端末を持ち歩き、話をしながらこの情報を共有しておこうとか、保管しようとか、ダイナミックに判断・操作するシーンが自然なものになるのではないか。
程 近智(ほど・ちかとも)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年6月4日)