NTTグループのシステムインテグレータであるNTTコムウェアがクラウドコンピューティング市場に参入。企業向けのエンタープライズクラウド「SmartCloud」を展開する。第1弾として2010年7月15日から、サーバーやストレージといったITリソースを提供するIaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)型サービスと、シンクライアント環境を提供するDaaS(デスクトップ・アズ・ア・サービス)型サービスの提供を始めている。同社に他社との差異化点や今後の展開などについて聞いた。
SmartCloudが狙うエンタープライズクラウドの条件をどうとらえているか?
櫻井:クラウドで強調されている「安価」なことに加え、セキュリティやガバナンスが確保できること、サービスレベルが保証できること、利用状況が把握できること、が条件になると考えている。
そこでのカギを握るのは、運用管理の技術やノウハウだ。仮想化技術を導入したサーバー環境では、仮想サーバーが管理対象になり、その数はこれまで以上に増える。加えて、種々のサービスの挙動をネットワーク上で把握しなければならない。SmartCloudでは、社内システムや受託開発したシステムの運用代行などで蓄積した運用技術・ノウハウを最大限に活用することで実現している。
社内利用ではPCの運用コストを2割削減
太田:この7月に開始したIaaSの「SmartCloud Resource Pool」とDaaSの「同Desktop」はいずれも、社内システムとして3年前から運用してきた環境をベースに商用化したものだ。
SmartCloud Desktopを例に取れば、そのシンクライアント環境は3年前から社内に展開してきた仕組みである。現在では本社内で5000アカウントを運用し、一般業務に利用している。PCへの社内標準アプリケーションの導入や各種パッチの適用といった運用業務面だけでも、TCO(所有総コスト)は2割ほど削減できている。
シンクライアント環境の実現には、セキュリティとガバナンスを効かせるために、サーバーベース方式を基本にしている。だが、柔軟性を高めるために仮想PC方式も実装しているのが特徴だといえる。当社では経理や購買といった部署で、仮想PC方式のニーズが高い。彼らはExcel上で巨大なマクロを実行するため、サーバーベース方式ではCPUに負荷が集中してしまうからだ。こうしたことは、実際に運用してみなければ分からない。
櫻井:クラウドのエンタープライズ利用では、セキュリティが必ず課題に上がる。しかし、SmartCloudは社内利用を含め既に実績があるクラウドだ。セキュリティや運用上の不安についても、当社の利用経験を元に説明できる。
クラウド事業はデータセンターなど設備投資が先行する。
太田:当社の場合、クラウド事業を始めるためにデータセンターを建設したりサーバー環境を用意したりしたわけではない。従来のSI事業において受託開発したシステムの運用を代行するためと、自社を含むNTTグループ向けシステムを運用するためにデータセンターを保有し運用してきた。
クラウド事業はむしろ、そうした既存資産に仮想化技術を適用した結果生まれた余剰資産を外販している形だとも言える。これは、米アマゾン・ドットコムがクラウド事業に参入した背景と同じだ。既存資産が大きかっただけに、仮想化技術による統合効果も大きいわけだ。
櫻井:クラウドについては、利用者視点から見たコストや使い勝手の話題が中心だが、クラウドの内側にいる当社からみれば、それはデータセンターの高度化にほかならない。サービスレベルを高めながら、そのいかに品質をどう均一にするかである。クラウド環境でいえば、マルチテナント環境におけるITインフラをいかに管理・運用するかが問われることになる。