[前編]多様なサーバーこそ競争力 全製品の技術革新を継続

基幹系システムの基盤となるハイエンドサーバーで、圧倒的な存在感を保ち続ける米IBM。メインフレームはもちろん、UNIXサーバーでもシェアは5割に達する勢いだ。ただ、クラウドの普及は競争条件を変える可能性を秘め、米オラクルという新たな挑戦者も現れた。サーバー事業全体を統括するロッド・アドキンス氏に事業戦略を聞いた。

Power Systemsなどのハイエンドサーバーで高いシェアを保っていますが、現状についての自己評価をお聞かせください。

 IBMは何年にもわたって、あるアプローチで投資をしてきました。それは、メインフレームやUNIX、x86といった様々なサーバーに注力するということです。お客様のアプリケーションやワークロードというのは、決して同じではありません。それぞれのお客様にベストなシステムを提供できるように投資してきました。

 その結果が最近の業績に反映されているのではないかと思います。特にPower Systemsは好調です。生産性や効率、ワークロードのパフォーマンスを追求することで、お客様に受け入れられたと思います。x86ベースのSystem xについても、クラウドベースのシステム構築を目指すお客様に広くお使いいただいています。

 取り扱うデータ量の増大というサーバー市場のトレンドも、追い風です。例えば電力業界では、スマートメーターなどの導入により、どんどんデータが生成されています。そして、増大するデータをいかにITインフラで管理していくかということが課題になっているのです。

 データを分析する必要性も高まります。ですから、お客様は継続的にハイエンドサーバー、さらにはストレージに投資をして、イノベーションを実現していく必要があります。

 我々も、お客様のワークロードやアプリケーションに合った形で、データの増大を対応する拡張性やパフォーマンスを追求すべく、この領域には投資を続けていきます。我々は今後ますます「(地球規模の課題をIT活用で解決する)Smarter Planet」のための「Smarter Systems」を語ることになるでしょう。

フルレンジで多様な要件に応える

データの増大への対応ですが、ローエンドのサーバーをたくさん並べることで対処しようという考え方もありますね。ハイエンドサーバーもItaniumからXeonへ切り替えることで、よりコモディティー化を追求する動きが出ています。それに対して、IBMは異なるアプローチですね。

 フルレンジで製品を提供していくということは、IBMの一貫した戦略です。それによって、広範な市場の多様なニーズに応えていけると考えています。RISCプロセッサの最新版であるPOWER7がいい例だと思います。まずはミッドレンジの製品の提供から開始しましたが、非常にコスト競争力のある価格帯にしました。最終的には、お客様のあらゆる要件に応えるために、POWER7のラインアップとしてエントリー、ミッドレンジ、ブレード、ハイエンドと取りそろえていきます。

 x86製品についても同様です。すでに次世代のeX5(第五世代 Enterprise X-Architecture)の提供を開始しました。まずはミッドレンジを出して、それからブレードを出して、さらにエントリー、ハイエンドについても、今後拡充させていく方向で進めます。ストレージも同じアプローチです。

多様な製品群は不利ではない

おっしゃることはよく分かりますし、IBMが多数の製品を投入できるくらい巨大な顧客ベースを持っているのも認識しています。しかしIT業界全体で、単一のアーキテクチャーでハイエンドまでカバーしていこうという動きが強まるなかで、異なるアーキテクチャーの製品を出し続けるのは、今後、価格などの競争力の面で不利になっていきませんか。

ロッド・アドキンス 氏
写真:陶山 勉

 私は不利になると考えていません。業界で数十年にもわたって、メインフレームがなくなると言われてきた議論を思い起こしていただきたいと思います。メインフレームが初めて登場したのが1964年です。それから1971年にIBMが仮想化を提唱しました。そもそも仮想化は、IBMが発明したものです。その後、クライアント/サーバー型のアーキテクチャーが全盛となり、最近ではクラウドコンピューティングが出てきました。確かに今、x86製品は伸びていますが、それでもあらゆるコンピュータを置き換えるまでには至らないと思いますよ。

 もちろん市場規模をどう見るかについては、議論の余地はあります。しかし、先ほど申し上げたようにお客様のニーズは様々なので、どこかの市場が丸ごとなくなるということはあり得ません。ですから、我々はこれからもメインフレーム、UNIXというプラットフォームには引き続き投資をしていきますし、同様にx86に対しても投資をしていきます。

 x86製品の業績で言えば、全世界的に見て6四半期連続で伸びていますし、シェアも伸びています。第1四半期のSystem xの成長率は36%増、ブレードでは55%増です。単にコストを下げるだけでなく、イノベーションを続けていますので、x86だけを見ても他社に比べて不利にはなりません。

 ほかの領域をやっているからこそ、x86に対してのイノベーションがもたらされるという利点もあります。eX5は市場で唯一、プロセッサ当たりのメモリー制約を乗り越えました。これは何十年にもわたってメインフレーム、UNIXのシステムを手掛けてきたからこそ、生まれた技術です。仮想化や管理の自動化についても同様です。統合化したシステム管理製品のなかに盛り込んで、プラットフォーム横断的に提供しており、x86製品でも使えるようにしています。

米IBM シニア・バイス・プレジデント
ロッド・アドキンス 氏
現在、半導体やサーバー、ストレージ、システムソフトなどを扱うシステム&テクノロジー・グループを率いるシニア・バイス・プレジデント。1981年9月、IBMに入社。86年2月にエントリー・システムズ・ディビジョンのスペシャル・コンポーネント・エンジニアリングのマネジャー。以降、デスクトップおよびUNIXシステム・ビジネスなどのマネジメントを歴任。2001年10月にソフトウェア・グループのパーベイシブ・コンピューティング・ディビジョンのゼネラル・マネジャー。09年10月から現職。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)