[前編]ネットを駆使して暮らしを豊かに、10万人超のリポーターから情報収集

天気情報配信で“あなたの気象台”を目指すというウェザーニューズ。同社サービスの特徴は、気象情報に加えて、全国津々浦々、10万人に及ぶ「ウェザーリポーター」から集める情報を基に「皆で一緒に創る」天気予報だ。さらに、リポーターや会員同士のコミュニケーション基盤を目指す。ネットをフル活用する同社のシステムを管轄する西システム開発本部長に、今後の展開や通信サービスへの期待について聞いた。

ウェザーリポーターから情報を集めて天気予報を作るという仕組みを考えた背景を教えてほしい。

 当社が天気情報配信のサービスを始めたきっかけは、悪天候のために起こった海難事故だった。実際には気象台からは警報が発せられていたものの、残念ながら事故に遭った船には情報が伝わっていなかった。

 そこで、もっとコミュニケーションを密にできる天気情報提供の仕組みが必要だと考えた有志が集まり、設立に至った。利用者が密に連絡を取り合い、精度の高い情報を提供し合える環境を作りたかった。

 ただ、天気は生活に密着した情報だから、もっと広い範囲でもニーズがある。今から洗濯物を干しても大丈夫か、今日のイベントの準備をどうしたらいいかなど、情報の提供方法次第で、天気情報が役立つ場面は広がる。そこで、海運向けだけでなく一般向けにも天気情報を配信するサービスを始めた。

 我々がサービスを提供するうえで重要なのはリアルタイム性だ。幸い、今は携帯電話が普及し、現地で撮影した写真を集めることまでできる。そこでウェザーリポーターを募り、実際の天気情報を集めるアイデアが生まれた。インターネットの普及で、世界各地からの気象情報の収集も苦にならない。こうした気象情報に、リポーターからの現地情報を加えれば、より精度の高い情報になる。2009年に大きな被害があった“ゲリラ雷雨”の情報も、こうした仕組みがあってこそ配信できる。

ほかに重視していることは。

 もう一つ重要なのが、ユーザーの環境に合わせた情報提供方法だ。

 天気情報によって人々の暮らしをもっと豊かにするには、どこにいても情報を入手できたほうがいい。だから、端末も多様なものに対応する。

 例えばiPad。スマートフォンとは違う使い方があるだろう。そこに合わせた情報提供も考えていく。

ウェザーリポーターは現在どの程度いるのか。

西 祐一郎(にし・ゆういちろう) 氏
写真:新関 雅士

 2010年4月で10万人を超えた。ここまで来るのに5年かかった。1年前でさえ3万~4万人くらいだったが、この1年で倍増した。

 ウェザーリポーターが急増したきっかけはゲリラ雷雨。急に天候が変わって豪雨がやってくるから、どの地域でいつ発生するか、予測が難しい。短時間で警報を伝えなければならない点も難しいところだ。そこで、ウェザーリポーターの中から「ゲリラ雷雨防衛隊」を募り、彼らから集めた情報を基に情報を発信した。

 この情報でゲリラ雷雨による事故などを避けられた利用者が多かったのだろう。これをきっかけにして、「自分が伝えた情報が役に立つなら」とウェザーリポーターを希望する利用者がどっと来た。

 最近はiPhoneを使って投稿するリポーターが増えている。iPhoneアプリを操作する楽しさと、自分の情報が“集合知”の一部になっている喜びがあるようだ。情報の偏りを避けるため、リポーターの投稿を一人1日3回までに制限しているが、現在、1日当たり写真付きで5000件の情報が集まるようになった。異常気象の際は、例外として投稿の制限を外していることもあって、投稿はもっと多い。例えば2009年の台風19号のときには、1日半で2万5000件の情報が寄せられた。

ウェザーニューズ システム開発本部長
西 祐一郎(にし・ゆういちろう) 氏
1966年生まれ。北海道出身。1990年、小樽商科大学卒業後、CSKに入社。1992年11月、ウェザーニューズ入社。1999年8月、同社取締役、BCDEカンパニープレジデント。2000年8月、常務取締役。2005年8月に退任し、システム開発本部長に就任(現職)。2006年12月からウィズステーション取締役も兼任。趣味はプログラミング、サイクリング。好きな言葉は「精進」。

(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年4月27日)