仮想化インフラストラクチャ・オペレーターズグループ(以下、VIOPS)は、もともと仮想化技術を運用するエンジニアのグループで、最近ではクラウドコンピューティングに活動の場を拡大している。2010年7月23日に予定する次回のワークショップ「仮想化インフラ・ワークショップ05 -XaaS DAY-」では、クラウドの構築・運用に関する課題を議論する予定だ。ワークショップのチェアをつとめるさくらインターネット研究所の松本直人上級研究員と、ライブドアのCTA(Chief Technical Architect) 情報環境技術研究室 室長の伊勢幸一氏に見所を聞いた。

(聞き手は田村 奈央=日経NETWORK



さくらインターネット研究所 上級研究員 松本直人氏
さくらインターネット研究所 上級研究員 松本直人氏

VIOPSとはそもそもどんな団体なのでしょうか?

松本:仮想化技術を実際に運用しているエンジニアが議論するための場所として、2008年にVIOPSを立ち上げました。ネットワークに関しては、例えばJANOG(日本ネットワーク・オペレーターズ・グループ)のようなエンジニアのグループがありましたが、仮想化について技術的な議論ができる場所がないと感じていたためです。定期的に勉強会を開いているほか、一般公開のワークショップを開催しています。仮想化技術のエンジニアはクラウドコンピューティングに興味を持つ人が多いので、2009年からはクラウドについても積極的に議論を進めています。基本的にボランティアの集まりです。

7月23日に予定する次回のワークショップ「仮想化インフラ・ワークショップ05 -XaaS DAY-」の見所を教えてください。

松本:クラウドに関する、上から下までいろんなレイヤーの議論をまとめてしたいと考えて、「XaaS Day」という名前をつけました。クラウドの導入を考えている企業ユーザーだけでなく、クラウドを構築しようとしている事業者に向けた話もします。

 セッションの中で“これは日本ではほとんど議論されていない内容だ”と思うのは、「クラウドに必要な法律と資産管理 ~これから知っておくべき概念~」です。従来のシステムとクラウドとを比べると、会計の考え方がいろいろ違うんです。

 例えばクラウド提供事業者が国際展開した際には、各国ごとの会計基準が適用されるでしょう。そのとき「課税はどうなるのか?」「国やリージョンごとに支社を立ててデータセンターを運用しながら、最終的にサービス利用料を送金する先が日本になっているときにはどうなるのか?」「クラウドについてはクレジットカードでサービス利用料を支払うユーザーが多いだろうが、貸し倒れが起こったときにどうなるのか?」――。疑問は尽きないわけです。今回は公認会計士や大学の研究者もまじえて、クラウドにまつわる法律、財務、資産管理などの課題を整理して、解決策を議論します。

ライブドア CTA(Chief Technical Architect) 情報環境技術研究室 室長 伊勢幸一氏
ライブドア CTA(Chief Technical Architect) 情報環境技術研究室 室長 伊勢幸一氏

伊勢:もう一つの見どころは、日本にも本気でクラウドをやろうとする人たちが出てきたことから、その運用の現場について生々しい話を語ってもらうパネルディスカッションですね。

 昨年くらいまで「クラウドとは何ぞや」という議論がさんざんなされてきましたが、その中でプライベートクラウドというのは従来の法人向けシステムインテグレーションの延長線上にあるサービスです。これまでのシステムインテグレーションのノウハウや、営業力を継承していくので、大きなパラダイムシフトはないんじゃないでしょうか。それとは違う「営業活動などの“人対人の交渉”が介在しなくても利用できるサービス(パブリッククラウド)」を、覚悟を決めてリリースする人たちが日本でも出てきたと思います。具体的には、ニフティやGMOホスティング&セキュリティなどのサービスですね。こうしたサービスを実際に運用している人の話は、それこそプライベートクラウドを提供している企業にとっても役に立つと思います。

松本:とはいえ、エンタープライズではプライベートクラウドを検討するケースもあるでしょう。そこで、今回は富士通のクラウドコンピューティングを実際に手掛けている人と、Amazon Web Servicesのユーザーグループ(AWS User Group Japan)からそれぞれ話をしてもらって、プライベートとパブリックの正しい使い方は何かを探るパネルディスカッションも設けています。

VIOPSで議論して、日本でクラウドサービスを立ち上げている事業者の今後の課題は何だと考えますか?

伊勢:エンドユーザーから見える価格については、米国発のパブリッククラウドと日本で立ち上がろうとしているものとの間に大きな違いがあるかというと、そうでもないと考えています。むしろ国内サービスの一番の課題は、ユーザーやパートナーを含めたエコシステムの構築ではないでしょうか。例えば日本でも多くのユーザーを抱えている米国発のパブリッククラウドサービスの一つは、アプリケーションの作り込みなども含めてパートナー経由で販売しているケースが多いと聞いています。そういった各国に合わせたブランディングや営業の力、それにクラウドのインテグレーションに必要なパートナー、システムデベロッパとの関係の構築が重要だと思います。

 もう一つ、ユーザーに対して効果的なクラウドの使い方を提示できていない点も、日本のサービス事業者の課題です。クラウドの特徴が生きる用途が何なのか、提供する側がユーザーにうまく説明できないことがあるんです。そうすると、ユーザーにとって「コストが下がるかと思って言われるままにクラウドを入れてみたが、結局あまり変わらなかった」ということになりかねない。

松本:エコシステムを作るためには、複数のエンジニアや企業同士で話をする場が必要です。VIOPSを作った背景の一つがそこにもあります。そういう中で今後、IaaS、PaaS、SaaSなどいろいろな呼ばれ方をしているクラウドの各階層の中継ぎをするようなサービスが増えてくると思います。例えば米国のアピリオという企業では、さまざまな視点から複数のクラウドをレイティングして、ユーザーの用途や予算に合わせてどのクラウドを組み合わせて使うのがよいかをコンサルティングするサービスを提供しているそうです。こうしたコンサルティング、あるいは複数のクラウド事業者と組んで、足りない部分を補いつつ上から下までのレイヤーをインテグレーションする企業が日本でもたくさん出てくると面白いんじゃないでしょうか。