総務省は2010年5月に、UHF帯パッシブタグシステムに関する二つの大きな省令改正を実施した。一つはどの場所でも使えて読み取り距離も長い「中出力型UHF帯パッシブタグシステム(以下中出力型)」の制度化である。もう一つは、ICタグ(RFタグ)システムに割り当てられているUHF帯の周波数(950M~956MHz)を2MHz拡大するというものだ。これらの改正がどのようなインパクトをもたらすのかを、日本自動認識システム協会(JAISA)の中畑寛氏に聞いた。

(聞き手は松浦 龍夫=日経ニューメディア

日本自動認識システム協会  研究開発センター  RFID担当 中畑 寛氏
日本自動認識システム協会 研究開発センター RFID担当 中畑 寛氏

今回の中出力型の制度化やUHF帯における2MHz幅の周波数拡大はJAISAが働きかけたのか。

 きっかけの一つにはなっていると思う。高出力型は距離が飛ぶが、使える場所が限られ、低出力型は読み取り距離が短い。利便性の面からいいとこ取りができないかと、総務省に要望してきた。実際にUHF帯ICタグシステムを導入している企業や、導入を検討する企業から総務省に働きかけがあったことも大きい。

中出力型がもたらすメリットを教えてほしい。

 中出力型はどの場所でも使えるので、例えば配送トラックのドライバーが荷積みの際にICタグを読み取り、離れた場所にある配送先の荷下ろしの際に、例えばハンディ型の同じリーダー/ライターで再度読み取るといったことが可能になる。また、読み取り距離が数十センチの低出力型は目視でICタグの場所を確認してリーダー/ライターをかざす必要があったが、中出力型は読み取り距離が長いために、複数のICタグを遠くから一括で読んだり、箱の裏側に貼ってあるICタグを回り込んで読んだりできるので、作業効率が上がる。

周波数拡大のメリットはどうか。

 周波数拡大は通信に使うチャンネル数の増加をもたらす。チャンネル数が増加すれば複数のリーダー/ライターが同時にICタグを読み取ろうとする場合も使うチャンネルが競合しにくくなる。読めない場合に発生するリトライの回数が減るので、読み取り時間の短縮や精度の向上につながる。今後中出力型の登場でICタグが普及すればするほど、リーダー/ライター同士の干渉が問題になる可能性が高まるので、チャンネル数増加をもたらす周波数拡大は、問題を未然に防ぐ働きがある。

今後、JAISAが中出力型の普及で取り組むことは何か。

 広報活動の中でICタグでできることを説明すると、「そんな使い方ができるのか」と驚かれることが多々ある。そんな経験からも、ユーザー企業に対して新たな用途の情報を広く発信していくことが重要と考えている。例えば中出力型の登場でオフィスの天井にある空調設備の管理も効率化できる。設備の情報を書き込んだICタグを設備に取り付けておき、2メートル飛ぶ中出力型を使って下から読み取るといったものだ。高出力型だとリーダー/ライターはその場所でしか使えないので、複数のオフィスビルをメンテナンスするには向かないし、低出力型だと天井のICタグは距離が遠く読めない。中出力型ならどのビルでも使えて、距離も長いので天井まで届く。こうした事例をどんどん紹介していきたい。

日本自動認識システム協会
研究開発センター

RFID担当 中畑 寛氏
06年9月からJAISAにて、UHF帯パッシブタグシステムの調査研究に従事。09年は中出力型UHF帯パッシブタグシステムや周波数拡大の検討活動に携わる。