コンサルティング会社のデロイト トーマツ コンサルティングは2010年3月、日本におけるメディア消費(インターネット、テレビ、新聞雑誌などのメディアとのかかわり方)の特徴を米国、英国、ドイツの3カ国と比較した結果を公表した(詳しくは同社のサイト参照)。国際的なプロフェッショナルファームであるデロイト トウシュ トーマツが日・米・英・独・ブラジルの5カ国で実施した調査「メディア・デモクラシーの現状」の結果に基づくもの。特に興味深い結果について、調査を担当したデロイト トーマツ コンサルティング テクノロジー・メディア・テレコミュニケーションズインダストリーグループ パートナーの古嶋 雅史 氏と同グループ マネジャーの桃井 智徳氏に聞いた。

(聞き手は平田 昌信=ITpro



調査の概要を教えてほしい。

デロイト トーマツ コンサルティング テクノロジー・メディア・テレコミュニケーションズインダストリーグループ パートナーの古嶋 雅史 氏(左)とマネジャーの桃井 智徳 氏(右)
デロイト トーマツ コンサルティング テクノロジー・メディア・テレコミュニケーションズインダストリーグループ パートナーの古嶋 雅史 氏(左)とマネジャーの桃井 智徳 氏(右)

 「メディア・デモクラシーの現状」は2007年から毎年実施している調査で、日本として2回目、グローバルなデロイトとして4回目になる。インターネットやCGM(Consumer Generated Media)が登場し、ネット上でのユーザー間の交流が活発になる中、メディアの形態やビジネスのあり方がずいぶん変化している。消費者のメディアとのかかわり方も、かなり変わってきたはず。その傾向をとらえたい、というのがそもそもの問題意識だ。

 調査では、インターネット、テレビ、新聞・雑誌、ゲーム・音楽といった複数のメディアを対象としている。複数メディアが対象で、しかも各国で比較できるような調査は、これまでなかったのではないか。

調査方法は?

 各国で独立した調査会社がインターネット調査を実施した。各国とも回答数は約2000で、年齢や就業状態の分布、男女の比率もだいたい同じだ。

全体的にどのような傾向にあるか。

 非常に面白かったのは、これまである程度議論されていた日本の消費者の特徴が、欧米との比較の中で、はっきりと確認できたことだ。

 調査結果から抽出した九つの行動因子に関する各国の得点(偏差値換算後)を見てみると(図1)、日本だけ、米英独のシェイプと明らかに異なっている。

図1●調査結果から抽出した9つの行動因子に関する各国の得点(偏差値換算後)
図1●調査結果から抽出した九つの行動因子に関する各国の得点(偏差値換算後)
出所:デロイト「メディア・デモクラシーの現状」調査日本版レポート
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 この結果から、日本の消費者に関する三つの特徴がうかがえる。一つめは、オンラインメディアに対して他国よりも積極的であること。例えば、「オンラインメディアをもっと利用したい」という行動因子の得点(偏差値換算後)は、米英独と比べて、とても高い。

 二つめは、自ら情報を加工・発信したりSNSで他人と交流するといった能動的な活動に対しては、他国のユーザーと比べて消極的という点。

 三つめは、日本の消費者は総じて広告配信に対して寛容ということだ。行動因子で言えば、「SNS/ゲーム中の広告に影響力を感じる」「広告受け取りのために個人情報を提供してもよい」の得点は高く、「インターネット広告は煩わしい」の得点は低い。

日本のユーザーが広告に対して寛容なのはなぜか。

 メディア利用に何を求めるのか、ということにかかわっているのかもしれない。

 インターネット上の活動の頻度に関する調査結果を見ると、日本のユーザーは「ポータルサイトの利用」「他者が製作したコンテンツの閲覧」「ニュースの閲覧」の頻度が他国に比べて高く、完成したコンテンツを受けとる活動には他国よりも積極的な傾向が見られる。このため、広告というコンテンツについても、自分の興味や関心に合っていれば、あまり抵抗を感じないのかもしれない。日本の場合、民放のテレビ放送で広告に慣れているということもあるだろう。

 一方、欧米では、もともと有料多チャンネル放送が普及しているので、お金を払って自分の価値のある情報を選択的に受け取る意識が高い。とすると、広告が入ってくることへの抵抗感が高くなってもおかしくない。

最も重視するメディア端末は携帯電話

今回の調査で、ほかに特に面白い結果はあるか。

 メディアを閲覧するときに重視する機器についての調査結果が興味深い。日本の場合、一番重視する機器は携帯電話で、2番目がデスクトップPC、3番目がテレビで、4番目がラップトップPCという結果。これに対して、米英独では、デスクトップPC、ラップトップPC、テレビ、携帯電話という順番だ。

 他国で携帯電話を「メディア端末」という認識で使うのは、ビジネスユーザーなどいまだ一部のスマートフォン利用者くらいだと思う。日本ではiモードやEZWebなどの携帯用Webサービスやワンセグが普及しているために、多くの人が携帯電話を「メディア端末」とみなしているのだろう。

 インターネット接続端末の利用時間の比率も面白い結果だ。日本の場合、米英独と比べて、圧倒的に携帯電話とゲーム機/携帯ゲーム機の比率が高い。携帯電話とゲーム機/携帯ゲーム機の比率は、米英独が約1割なのに対して、日本では4割近い。日本の場合、年齢が高くなっても、この比率があまり落ちないことも特徴だ。