[前編]“検索”を超える基盤を作りたい,行動把握をマネタイズの原資に

なぜ日本は米グーグルのような検索エンジンを作れないのか。こうした発想からスタートした「情報大航海プロジェクト」が,2010年3月末で活動を終える。3年間の活動を通じて,どのような知見が得られたのか。戦略委員会議長として同プロジェクトを率いた東京大学 生産技術研究所 戦略情報融合国際研究センターの喜連川優教授に話を聞いた。

情報大航海プロジェクトは何を目指したのか。

 意識したのは,新しい領域の情報検索・分析プラットフォームを作ることだった。当時,グーグルは既にネット検索の分野で確固たる地位を築いていた。膨大な資金をつぎ込んでも,先行者利益の大きいIT業界において,グーグルを超える検索エンジンを作ることは簡単ではない。

 ただし,異なる領域なら話は別だ。グーグルが手掛けているのは,あくまでもテキストを使って文書を探し出す検索サービス。画像を検索するサービスも提供しているが,結局はテキストを検索しているにすぎない。

 この先インターネットで,テキスト以外の情報をもっとたくさん集められるようになると,その情報の整理・分析の基盤が必要になる。例えばセンサー情報や購買履歴などだ。それに比べたら,今のグーグルの検索対象になっているテキスト中心の情報は,ほんの一部でしかない。3年間で100億円を投じる国家プロジェクトとしては,グーグルとは違う,こうした新しい領域に踏み込もうと考えた。

国産の検索エンジンの開発は必要ないのか。

 そうではなく,情報大航海プロジェクトとしては作らないと決めたということだ。経済産業省のプロジェクトの目的は,支援した産業を発展させることにある。これに対して検索エンジンの開発は基礎研究であり,経済産業省のプロジェクトの目的には合わないと判断した。

 とはいえ,国産の検索エンジンは,国家の情報基盤として必要だと考えている。グーグルと中国政府のような問題を考えたとき,やはり国家としてコントロールできる形で,情報基盤を保有している方がよい。また,テキスト情報を扱う検索エンジンは言語依存性が強い。そのため日本語の検索に特化した検索エンジンが求められる。これらの基礎研究は,経済産業省ではなく文部科学省が手掛けるべき分野だ。

情報大航海プロジェクトが目指した領域を,もう少し具体的に言うと。

 テキストではない情報とは何かと色々考えて思い付いたのは,人の行動を把握できる情報だ。それを収集・分析すればマネタイズの原資になると考えた。

 人の行動情報の多くは,サイバー空間ではなく実空間に存在する。たいていの人は,サイバー空間より実空間に滞留する時間の方が長い。それを収集・分析の対象とするわけだ。

 人間の行動パターンは,人それぞれ全部違うものだが,一人の人間の行動パターンを見ると,日々それほど変わるものではない。ビジネスパーソンであれば,平日は自宅と勤務先を往復するくらいだ。この位置情報に,それぞれ収集した時刻の情報を重ね合わせていくと,一人の行動パターンはほぼ固定される。この行動情報を使うかどうかで,情報のリコメンド(推薦)精度は全く違ってくる。