「仮想化技術はプライベートクラウドの前提であり“布石”だ」。米マイクロソフトで仮想化製品を担当するラドヘシュ・バラクリシュナン氏は、こう述べる。ハードウエア資源の「プール」作成、資源割り当てや運用管理環境の整備と、実現には段階をたどる必要があるとも指摘。「プライベートクラウドを作ることで、企業のIT部門はその地位を大きく高めることができる。仮想化基盤製品群で、プライベートクラウド構築を支援する」と語る。

(聞き手は玉置亮太=日経コンピュータ


米マイクロソフト サーバー&ツール事業部門 仮想化担当ディレクター ラドヘシュ・バラクリシュナン氏
米マイクロソフト サーバー&ツール事業部門 仮想化担当ディレクター ラドヘシュ・バラクリシュナン氏

マイクロソフトの仮想化戦略とクラウド戦略は、どのような関係にあるのか?

 顧客企業にとって最も適したクラウド環境は、プライベートとパブリックを組み合わせた「ハイブリッド型」である。マイクロソフトはプライベートとパブリックの両方で、IaaS、PaaS、そしてSaaSを提供できる唯一の企業だ。

 仮想化は、こうしたクラウド環境を構築する主要な技術である。当社の仮想化戦略の基本は、まずWindowsのすべてのバージョンで仮想化を達成すること。現在はサーバーの方が仮想化では主流。デスクトップはまだ実験的な段階である。

 そして物理と仮想の両方で共通の管理技術や管理製品を提供することが大事だ。当社のシステム運用管理ソフト群「System Center」をパブリックとプライベートの両方の基盤に置く。例えばプライベートクラウドで動いている仮想マシンを、マイクロソフトのWindows Azureやほかのデータセンター事業者が提供するホスティング環境に移しても、顧客企業は仮想マシンの稼働場所を全く意識せず、同じように利用できる。System Centerに含まれる仮想環境管理ソフト「Virtual Machine Manager(VMM)」の次期バージョンには、こうした仮想マシンのマイグレーション機能を搭載する。

そもそも大規模な仮想化環境とプライベートクラウドで、実現できる機能や利用者の利点は何が違うのか?

 仮想化されたデータセンターは、いわばプライベートクラウドへ移行する前の布石だ。まず仮想化技術を使って、データセンターにおけるサーバー、ストレージ、ネットワークなどの資源をまとめた「プール」を作る。これによって、各ハードウエアの稼働率を高め、運用を効率化する。

 仮想化環境を構築するのは、ハードウエア側からのアプローチである。この大規模な仮想化環境をプライベートクラウドへと進化させるには、アプリケーション側からのアプローチが必要になる。具体的には、アプリケーションごとのサービスレベルを定義したり、仮想化した資源プールを基にシステム構成を設計したりできる機能、処理能力を手動または自動で割り当てる「プロビジョニング」、これらを顧客企業のIT部門が自ら実行できる「セルフサービスポータル」などだ。こうしたアプリケーション層に近い機能、資源プールを柔軟に運用管理できる機能が加わってこそ、その環境はプライベートクラウドと呼べる。

 プライベートクラウドを構築することで、企業のIT部門は自社の利用部門に対する「サービスプロバイダー」になる。利用部門が必要とするシステム資源を、必要に応じて迅速に提供できる。ビジネスの変化に即応する情報システム基盤を提供することで、IT部門が企業の変化や新規事業を牽引する主役になれるのだ。ハードウエア資源をプール化することで、利用率のムダもなくして情報化のコストも削減できる。

仮想化からプライベートクラウドへ移行するために、マイクロソフトはどんな製品や技術を提供するのか?

 仮想化ソフト「Hyper-V」や管理ソフト「System Center」は基本となる。これら以外には、大きく三つの側面がある。まずコマンドラインを使って管理作業を自動化するツールの「PowerShell」。仮想化の基盤(ファブリック)を作るため、サーバー、ストレージ、ネットワークを同一の手法で管理できるようにする。パートナー企業がPowerShell向けに、Windows標準の管理機能を拡張したツールの開発も進めている。

 二つめが「Dynamic Datacenter Toolkit」である。これはIT部門やデータセンター事業者向けの、クラウド基盤設計ソフトだ。仮想化したハードウエア資源プールを使ったシステム設計、資源割り当て作業のワークフロー構築などを担う。現在、データセンター事業者向けに無償提供しており、今年半ばくらいには一般企業向けにも提供を開始する。

 三つめがソリューションの参照アーキテクチャだ。当社はプライベートクラウドの参照アーキテクチャについて、ベータ版を開発した。WindowsサーバーとHyper-V、System Centerを組み合わせて、プライベートクラウドへ移行するための全体像を示したものだ。これも夏ごろには正式版を公開する。