「既存技術との互換性とソリューションの幅広さ」。米マイクロソフトでクラウド戦略立案を担当するティム・オブライエン氏は、Azureの特徴をこう語る。クラウド推進に向けて開発体制を刷新したことを表明。クラウドへの展開を前提に、ソフトウエア製品を開発していくと明言した。

(聞き手は玉置亮太=日経コンピュータ


米マイクロソフト クラウド戦略立案 シニア・ディレクター ティム・オブライエン氏
米マイクロソフト クラウド戦略立案 シニア・ディレクター ティム・オブライエン氏

Azureの商用サービスが始まった。利用者や開発者にどんな利点を訴えるのか?

 マイクロソフト製品の技術者とそうでない開発者の両方に対して、伝えるべきメッセージがある。

 まず、すでにマイクロソフトの製品やプラットフォーム向けの投資をしてきた開発者に対しては、その投資を継続して使ってもらえることを伝えたい。

 Windowsには600万から700万人の開発者がおり、パートナー企業の巨大なエコシステムを形作っている。彼らはまず、開発するプラットフォームを選び、それに投資する。

 これまでに学んだ開発言語や使い慣れた開発ツール、開発技術、取得した認定資格などは、開発者にとっての資産だ。クラウド時代も、こうした資産を有効活用できなければならない。

 Windows Azureは、顧客企業が投資したWindowsアプリケーション、ITエンジニアがすでに学んだWindowsのプログラミング言語や開発スキルを、そのまま使える。マイクロソフト製品へ投資した資産を、継続して活用してもらえる

 一方で非マイクロソフト製品向けの技術を習得している開発者にも、Azureは十分に活用してもらえる。PHPやJava、Python、Rubyといった開発言語を使ってアプリケーションを開発できるほか、Eclipseを開発環境として使うことも可能だ。つまりこうした技術に投資した開発者も、マイクロソフト技術への投資と同じ状況にあると言える。非マイクロソフト技術者のコミュニティに対しても、Windows Azureはオープンだ。

「既存技術を生かせる」以外に、もっと進んだ特徴はないのか?

 もちろんクラウド基盤として、Azureは幅広い利点を備えている。

 クラウド基盤には、ハードウエア資源を貸し出す「IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)」と、開発環境やミドルウエアを含めた「PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)」の二種類がある。

 IaaSの代表例がアマゾンの「EC2」や、ヴイエムウェアを使ったホスティングなどだ。これら仮想マシンのホスティングサービスは、既存のシステムをそのまま動かせるため、開発者はプラットフォームの違いを気にすることなく、とても容易に利用できる。

 だが運用管理を考えると、IaaSだけでは解決できない問題が残っている。開発環境や可用性を高めるためのミドルウエアを導入・設定したり、セキュリティのパッチ(修正ファイル)を適用したりといった作業だ。アマゾンはこれらの作業を代行することはない。利用者である開発者や顧客企業が、パッチを当てるなどの作業を実施する必要がある。この点は自社で運用する既存システムと変わりはない。

 一方のPaaSは、マイクロソフトのAzureのほか、セールスフォースのForce.com、グーグルのApp Engineなどが代表例となる。開発環境やアプリケーションのランタイム(実行環境)、データベースなどのミドルウエアを備えている。

 開発者はPaaSを使うことで、運用管理やシステムの性能拡張などに関する“摩擦”を気にすることなく、アプリケーション開発に専念できる。稼働環境は仮想マシンとして提供されるが、その運用管理を気にする必要はない。処理能力のスケールアウト(拡張)や運用管理は、すべて自動化している。

 これらはPaaSの魅力だが、Azureのユニークさは自社運用とクラウドの両方の良いところを選べる、ベスト・オブ・ブリードのシステム構築が容易なところだ。アプリケーションを自社内のデータセンターとマイクロソフトのクラウド、両方で稼働でき、両者を連携動作させることも容易だ。しかも先ほど述べたように、既存の開発スキルや資産を継続できる。

 つまりソリューションの幅の広さこそが、Azureの魅力だ。競合他社は新たにパートナーを獲得するため、多大な努力を払う必要がある。