[前編]IT企業は国外に眼を向けよ 社会インフラ向けITが切り札

イノベーションやMOT(技術経営)の著書がある藤末健三参議院議員は、民主党でIT産業に通じる屈指の議員の一人として知られる。スパコン予算を巡る議論もあって、民主党政権のIT・科学技術分野への政策を不安視する見方も多い。同議員は、IT産業は自動車、電機に次ぐ、日本を支える産業にならなくてはならないと力説する。

日本のIT産業の現状をどう分析しているか。

 力がある企業が多いのに、やるべきことをやっていないと感じています。重要なのはイノベーションとグローバリゼーションの二つです。

 これらへの取り組みが遅れています。政府としても支援すべきでしょうが、まずは体力がある大手IT企業が業界を引っ張ってほしい。

具体的にどのように支援するのか。

 まずは規制緩和でしょう。地上波デジタル化で空く周波数帯をどのように有効活用するかなど、慎重に議論する必要があります。

 企業がイノベーションに力を入れなければ、日本が危機的な状況に陥ることは間違いありません。私は「イノベーション担当大臣」を設けるべきだと考えています。

 現在の内閣は科学技術政策大臣を設けています。これに加えて、知的財産やIT、宇宙、海洋、原子力研究開発といった分野のイノベーション推進政策をすべて担当するのがイノベーション担当大臣です。

 イノベーション担当大臣は各分野の所管をする大臣ではありません。イノベーションの促進に特化するのです。それほど重要だと考えています。

「バイカルチャー経済」から脱却

 IT企業が推進すべきグローバル化の遅れについても、同様の危機感を持っています。

 IT企業には外貨を稼いでほしいのです。石油などのエネルギー資源は約22兆円、食糧は約6兆円を日本が輸入しているというデータがあります。30兆円近い外貨を稼がなければ、日本は経済的に成り立たないと考えることもできるのです。

 開発途上国の経済状態について、「モノカルチャー経済」と表現することがありますね。単一の農作物や資源に依存し、資源の価格変動に経済が大きく影響される状態を指します。

 実は日本もそれに近い状態でした。自動車産業や電機産業に依存していたのです。「バイカルチャー経済」とでも言えばよいでしょうか。ここから脱却し、外貨を稼ぐ産業を育てる必要があります。IT産業のグローバル化は、国益に直結するのです。

日本のIT企業は何を武器に海外市場に進出すればいいのか。グローバルで通用するパッケージ製品作りや価格競争力では、海外のIT企業に太刀打ちできない。

 ITは社会のあらゆる場面で使われています。なかでも、交通や電力網、医療などの社会インフラで使っているITの力は日本が優れています。

 先日、中国のあるITベンチャー企業の社長と話す機会がありました。日本に進出したいというのですが、理由を聞くと、鉄道や電力網、工場を管理・運用する情報システムの品質が非常に高いので、そのノウハウや技術力が欲しいというのです。

 日本のように、きめ細かく社会インフラを管理できるシステムを持っている国はほかにありません。停電などがめったに起こらないのも、電力網を管理するシステムが優れているからです。ここは日本のIT企業にとっての強みになるはずです。