フリービットとしては,どこで収益を得るということか。
大事なのは「どうやってフリー(無料)に対応するか」ということだ。例えばオンライン・ゲームの事業者が利益を上げられるのはコストを抑えているから。そういうモデルを突き詰めていくとフリーになる。これは,どんなビジネスでも同じだ。接続サービスでも,それを想定してビジネスを展開しなければいけない。だから,全社を挙げてフリーへの対応,言い換えると継続課金で稼げるモデルを考えている。もうけを生むのは周辺ビジネスだ。
この目標に向けたビジネスモデルの一つは,ServersManのライセンス・ビジネス。分かりやすい例はプラネックスコミュニケーションズが販売している「CAS」(Cloud Attached Server)というServersMan入りのNAS(network attached storage)。同じモデルよりも30%高い価格を設定したが売り切れた。この30%にライセンス料の原資がある。
もう一つは,ServersManを使ったサービスやアプリケーションへの課金。ServersManでは仕組み上,VPNを張ったことがフリービットに分かる。トランザクションの内容を見ているわけではないが,どちら側からアクセスしているか,何分くらい使っているか,どういうグルーピングをしているかといった,トラフィックに関する情報を把握できる。そこからユーザーの使い方を見れば,その通信に課金できる。課金代行の手数料もフリービットにとっての収益になる。
この仕組みを他の事業者に提供することも考えているか。
海外の携帯電話事業者から,これを応用して柔軟な課金の仕組みを作りたいと相談されている。現状では定額制が主流だが,あるアプリケーションをServersManと組み合わせてノードにすれば,パケット課金モデルを簡単に作れる。交換機に手を加える必要はないから,コスト・メリットは大きい。
とりわけ新興国は積極的だ。例えば彼らとの会議で,ServersManをベースにしたブラウザを作れないかというアイデアが出てきた。そのブラウザからの利用に対してだけ優先制御をかけ,課金するという発想だ。
課題は何か。
大切なのは,端末販売,アプリケーション配信,課金,サポートなどのサービスを一体として提供すること。ネットワーク設定などは,一般のユーザーには難しすぎる。だから,ネットワークまで含めて一つのサービスとして提供して,設定を簡単にする必要がある。フリービットの場合はインターネット接続関連事業のノウハウを使ってMVNO(仮想移動体通信事業者)ビジネスをやれる。端末や家電機器の製造・販売は関連会社のエグゼモードに任せるから,ユーザーのサポートもフリービットと同じセンターで受け付けられる。
仕組みに関して言うと,完成度は現時点で7割程度だと思っている。最大の課題は省電力化だ。今のスマートフォンは起動したままにすると1日ともたない。リチウムイオン電池の進歩を待つだけではなく,省電力化を進める必要がある。かなりベースの研究から進める必要がありそうだ。
少し話が変わるが,中国ビジネスも積極的だ。
10年先を見たとき,日本を向いたビジネスだけでは厳しい。フリービットとしては,どこまでプラットフォームを安く提供できるかがポイント。そうなると,膨大な数をさばける中国市場と中国メーカーがカギを握る。
もう一つ,中国では今,温家宝首相が言い出したこともあって,M2M(machine to machine)にものすごい熱気がある。ただ,デバイスはあっても,ネットワーク・アーキテクチャについてはあまり考慮していなかった様子。だから,そこにServersManの仕組みを生かせると思っている。
石田 宏樹(いしだ・あつき)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年2月4日)