ソフトバンクグループがクラウドにまい進している。月額4500円からの仮想マシン貸しを2月に開始するソフトバンクテレコムを先陣に、内容を拡充していく。クラウド戦略を率いる阿多親市氏は、「当社には文字通り『売るほど』のインフラがある。規模の経済を生かして低価格なクラウドを提供する」と意気込む。
海外の大手IT企業に続いて、日本企業も相次いでクラウドへ参入している。ソフトバンクテレコムも仮想マシン貸しサービスの「ホワイトクラウド」を始めた。
まさにクラウドコンピューティング全盛ですね。クラウドって書かなくてもいいんじゃないかと思うこともあるくらい、何でもかんでもクラウド対応サービスと言っていたりしますから。
同様な仮想マシン貸しサービスを提供するクラウド事業者は急速に増えていますが、そのなかでも当社は優位な立場にあると思っています。
具体的には?
クラウドのシステム基盤とサービスを一式、すべて自前で持っていることです。グーグルやアマゾンほどとは言いませんが。ここでのポイントは、当社のクラウドサービスの基盤はお客様へ提供するためのものであると同時に、通信事業者である当社のサービスを支えるものでもあるということです。
当社の基幹システムは2000万人の利用者に、1日当たり8億件以上もの通信ログを収集して、課金処理を実行しているシステムです。連結で2兆6000億円に上るグループ会社の連結会計システムも、僕らが運用している。これらのシステム基盤をホワイトクラウドに流用します。
こうした当社のシステムは、24時間×365日、止めることはできません。ホワイトクラウドを何社の顧客企業に使ってもらえるか分かりませんが、いずれにせよ1日8億件の課金処理は止められないんです。
これを当社の運用方針やサービス規定に沿って貸し出します。システムの所有権はあくまで当社にあり、サーバーやストレージの仕様や、稼働率や運用のポリシーも当社のものに従っていただく必要があります。当社の方針に合わせてコストを薄く広く負担してもらえるなら、お客様自身で運用するよりも高品質で安いシステム基盤を使える、というわけです。
自分たちの必要性に迫られて作った巨大インフラを、コストを負担して使ってもらう。そうでないとスケールメリットが出ません。そこを理解していただく必要があります。
理屈としてはグーグルなどのクラウドサービスと同じということか。
そうです。クラウドは本来、余っているリソースを貸し出すことで始まったサービスだったはずです。グーグルにしてもヤフーにしても、毎年、何万台の規模でサーバーを増強しなければならない。これは止められないのです。例えば、ある時期に5000台ぐらい空いているときがある。ならば「お客さん、これ使う?」というのが、本質的な論理です。
難しいのは、お客さんの要望と当社のスペックが100%合うなんていうことはないということです。だからといって、100%うちの言うことを聞いてくれないとだめ、というわけではありません。当社のサービスの仕様や運用方針をお客様に提示して、どの辺までが譲れるのか、相互に理解をして、仕様をすり合わせていく必要があります。パッケージソフトのように、当社の仕様に合えば合うほど、お客様のほうも楽ができるというわけです。
当社には文字通り、データセンターと回線が売るほどあります。クラウドのためにわざわざ仕入れたインフラを使うサービスは、結局は高く付きます。大手コンピュータメーカーがお金をもうけようと思って仕入れたインフラを使うサービスの場合、お客様は仕入れ値より高く買うことになるんでしょうね。クラウド事業者が、売るためにわざわざインフラを買っていたらダメですよ。これじゃ投資を回収できない。
何でもやりますと言っていては、結局どっちのためにもならない、と。
ならない。言葉はよくないかもしれませんが、「お客様第一で何でも要望を聞きます」という商売をしちゃうと、実はお客様が一番お金を払うことになるんですよ。
阿多 親市(あた しんいち)氏
(聞き手は、玉置亮太=日経コンピュータ)