クラウドデバイスでどのようなサービスを提供するのか。
一つは動画配信サービス。そして,もう一つ注力しようとしているのが「Twitter」だ。クラウドデバイスでもTwitterが使えるというレベルではなく,これも「TwitterならNECビッグローブ」を言われるくらい,力を入れたい。
なぜクラウドデバイスでTwitterを重視するのか。
今なら先手を打てる分野だからだ。これまで,プロバイダはポータル・サイトとしての地位を競ってきた。しかし,国内のポータル・サイトは,長きにわたりヤフーの寡占状態にある。さらにプロバイダ各社は,ブログやSNS(social networking service)にも相次いで乗り出したが,ビッグローブはこの分野で出遅れた。Twitterは巻き返しを図るチャンスだ。
既に,パソコン向けには「ツイっぷる」というTwitter用のWebアプリケーションを提供している。これまで当社は,NECグループの製品開発方針に従い,完璧な状態まで作り込んでからサービスインしてきた。
しかし,「ツイっぷる」に関しては,サービスインに漕ぎ着けることを優先し,多少の課題には目をつぶって提供し始めた。
アプリケーション・マーケット「andronavi」の戦略は。
NECビッグローブは,有料会員と無料会員を合わせて2000万人以上のユーザーを抱えている。andronaviは,まず,この2000万人にアプローチして,新しいサービスを提案していく。
狙い目は人々が新たに興味を持ち始めたテーマ。例えば環境問題,食料問題,健康問題に関するものだ。当社は家庭のCO2排出量を見える化する「みんなでカーボンダイエット」や,休耕地を利用したレンタル農園とインターネット上のバーチャル農園を組み合わせた「BIGLOBEファーム」などのサービスを提供している。ネットとリアルを融合させたサービスで,思った以上にユーザーから反応がある。
andronaviでは,こうしたサービスを新しい端末向けに提供することで,社会意識の高いユーザーを獲得できると考えている。
通信の契約をすることなくコンテンツの代金だけを支払えば済む米アマゾン・ドットコムの「Kindle」のようなビジネスモデルを,クラウドデバイスで提供するサービスにも持ち込もうと思うか。
正直,プロバイダとしてKindleのモデルにはものすごい危機感を感じる。こうしたモデルでは,当然,背後に通信事業者やプロバイダがいる。しかし,ユーザーは端末を購入するだけで通信できるので,どの事業者/プロバイダを利用しているのか意識しない。ユーザーにプロバイダを選択してもらうチャンスがないわけだ。
こういうサービスはこれから増えていくだろう。だからこそ,Androidには先手を打ちたかった。クラウドデバイスでは,ユーザーに通信方式を意識させないサービス提供を目指す。屋内では無線LAN,屋外では第3世代携帯電話(3G)やWiMAXというように,環境に応じて適切な通信に自動で切り替える。
将来的には,クラウドデバイスで使う複数の通信回線の契約窓口を,NECビッグローブに一本化したい。ユーザーからはNECビッグローブしか見えないが,裏にはイー・モバイルやUQコミュニケーションズがいるという構図だ。複数の通信回線の契約を一本化して自動で切り替わる仕組みを作れてこそ,MVNO(仮想移動体通信事業者)の存在意義が出てくる。
それと同時に,裏方としてビッグローブがいるから大丈夫と安心してもらえる接続サービスも提供しなければいけないと思っている。
表面上はアプリケーション提供者として,同時に裏側ではプロバイダとしてユーザーに利便性の高いサービスを提供する。ビッグローブが目指している,ユーザーがクラウドから必要な情報とサービスを得るための支援をする“インターネット・サービス・パートナ”とは,そういうことだ。
無線通信はますます高速化が進んでいる。
今回のクラウドデバイスでは,WiMAXや無線LANを採用したが,LTE(long term evolution)が登場して100Mビット/秒級の無線通信が可能になれば,動画の使われ方が変わってくるはずだ。
そうなってこそ,クラウドデバイスのような端末の本当の価値を引き出せる。現在の無線の通信速度では,まだ物足りない。その点で,携帯電話事業者には大いに期待している。
飯塚 久夫(いいづか・ひさお)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年1月19日)