「インターネット・サービス・パートナ」の戦略を掲げ,接続サービス事業収入に依存したビジネスモデルからの脱却を図るNECビッグローブ。Android OSを搭載したインターネット端末「クラウドデバイス」の販売とアプリケーション・マーケット「andronavi」の構築に乗り出した意図はどこにあるのか。飯塚久夫社長の本音に迫った。
Android端末「クラウドデバイス」を発表した反響はどうか。
大きな反響を呼んでいる。1月18日にモニター・ユーザーの募集を開始したが,定員100人に対して1日で500人を超える応募があった。
端末メーカーからも,「もっと適したハードウエアを提供できる」という提案が何件か来た。2月からモニター・ユーザーに貸し出す台湾カマンギ(Camangi)製の「WebStation」に加えて,NEC製の端末も2010年中に発売するが,まだまだほかのデバイスを探す余地がありそうだ。
クラウドデバイスの何が注目されているのか。

何と言っても端末の新規性だろう。通信端末についてはこの10年,NTTドコモが「iモード」で見事に新しい使い方を開拓してきた。ただユーザーは,データ端末としての携帯電話にすっかり慣れて,目新しさを感じなくなりつつある。
一方で,データ端末の使い方は次第に高度化してきている。それに合わせてユーザーが,「屋内でも屋外でもシームレスに使える」,「パソコンでも携帯電話でもないサイズや操作性」といった特徴を持つ端末を求め始めている。クラウドデバイスは,そういう市場を狙った端末だ。
携帯電話とパソコンの中間という意味では,以前にもPDA(携帯情報端末)があった。特に日本では何種類も端末が登場し,浮き沈みを重ねてきた。ただAndroidの潮流はグローバルなもの。PDAの二の舞にはならない。
iモードが成功した最大の理由は,ハードウエア互換のアプリケーション開発が可能だったことだ。この点は,Androidも同じ。ただ,iモードはドコモ・ヘゲモニー(主導権)の下で動かなければならないが,Androidはiモードと違ってオープンなプラットフォームだ。ハードウエア,アプリケーションとも未熟で,まだまだこれからではあるが,間違いなく動き出した。だから,いち早く先手を打ちたい。
ビッグローブとしては,ハードもアプリも世界と歩調を合わせた戦略を考えている。例えばAndroidなら,クラウドデバイス向けに作ったアプリを英語に翻訳するだけで海外でも使えるようになる。
ハードウエアを販売することにリスクはないのか。
もちろん,自ら在庫を抱えるリスクはある。インターネット接続事業者(プロバイダ)としては,今まで考えずに済んだリスクだ。
ただビッグローブの専用端末ではなく,ハードウエア・メーカーが同一機種を他のチャネルで販売しても構わないから,メーカーが端末開発に乗り出しやすい。それがAndroidの良さの一つだ。その分,ビッグローブとしても端末提供のハードルは下がっている。在庫リスクを気にするよりは,新しい市場を開くためのクラウドデバイスが欲しかった。
クラウドデバイスでどのようなサービスを提供するのか。
7インチ(800×480ドット)ディスプレイの大きさのメリットを生かしたサービスを考えている。その一つは,動画配信サービスだ。特に,アニメの配信に注力し,「アニメならNECビッグローブ」という立場を目指したい。アニメを視聴するのはパソコンでもよいが,できたら持ち運べた方がいい。といって,携帯電話ではディスプレイが小さすぎる。クラウドデバイスならコミック・サイズという端末の大きさが生きてくるし,場所を選ばず視聴できる。
「おでかけ」を便利にするサービスも拡充する。例えば,温泉の検索から宿泊予約まで簡単にできるサービスだ。これも,屋外と屋内の両方で使いやすいというクラウドデバイスの特徴を生かせる分野だろう。
飯塚 久夫(いいづか・ひさお)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年1月19日)