帝人グループは、2011年3月期の当期純利益黒字転換を目標に、稼働率70%でも利益を確保できる事業構造改革を進めている。一般的に、大型設備産業では稼働率が75%を下回るとブレークイーブンを割り込むと言われている。帝人の大八木成男代表取締役社長に改革の構想を聞いた。(聞き手は多田和市=前「経営とIT新潮流」編集長、現日経ビジネス編集委員)

帝人代表取締役社長の大八木 成男氏
帝人代表取締役社長の大八木 成男氏
写真:宮原 一郎

2008年6月に代表取締役に就任してから、経営環境はどのように変化してきましたか。

 就任直後から、サプライズの連続でした。まず、最初のサプライズとして、2008年度(2009年3月期)前半に、当社製品の原燃料である原油価格の高騰がありました。これに対しては、当社として手の打ちようがありません。急激なコストアップを迫られ、2008年度は利益計画が全く達成できないという状況に追い込まれました。

 2008年度後半になると、今度はリーマンショックによる需要の“蒸発”がありました。国内の製造業各社がキャッシュを確保するために、在庫水準を一挙に絞って製造活動を中止したのです。この影響で、需要がなくなってしまった。それと時期を同じくして、今度は為替変動による利益縮小が深刻になりました。

 なぜ、2008年度後半に日本市場でここまで大きなショックが起こったのかというと、やはり、日本の産業構造全体を形成してきたのは自動車産業だったからです。自動車の輸出が急減し、国内の生産もダウンしました。そうなると、自動車関連のすべての産業群で製造活動が止まってしまいます。当社も、自動車向けに素材を提供している1社でしたから、当時は先がまるで見えない状況でした。

運転資金確保のため成長戦略をひとまず放棄した

 この最悪の段階からは、2009年度の第1四半期(2009年4-6月)で若干回復しましたが、それでも、明解な戻り調子には至っていませんでした。私の理解では、2009年4-6月は、産業の末端でようやく製造活動がスタートしたことに伴い、極端に低いレベルまで圧縮された在庫が戻りはじめたというだけです。

 2009年度第2四半期(2009年7-9月)は、世界各地で政府の経済対策が効きました。日本政府も相当額の財政投融資をしましたし、特に中国経済は急激に回復しました。中国に先導されて、また欧米企業の在庫形成に合わせて、徐々にマクロな日本経済が回復してきたというのが2009年の7-9月の段階だと思います。この段階において、当社の企業活動の焦点は、我々でコントロールできないマクロの動向に、どう身の丈を合わせていくかというところにありました。

 中長期の成長戦略を放棄して、経営の優先課題を、運転資金を確保するためのキャッシュフロー・マネジメントに転換しました。その後は、短期の緊急対策が一通り終わったら、長期の成長戦略に切り替えるという2段構えの経営基本方針で活動してきました。

2009年度の業績予想では、素材事業が極端に落ち込み、医薬医療事業が増収増益となっています。素材事業の今後の見通しはどうですか。

売り上げで、サービスが素材を初めて上回る

 当社の91年の歴史の中で、サービス(流通リテールや医薬医療事業、IT=情報技術など)の売り上げが素材を上回るのは初めてのことです。素材事業の見通しですが、それはマクロの経済環境がどう変化していくかが大きく影響します。今やるべきことは、マクロの動向を見て、この先急激に経済回復するような地域に経営の軸足を移していくことです。私が期待しているのは、米国の経済回復と、中国とインドを含むアジア地域です。

 2009年7-9月の時点で、米国経済は前年対比3%近い伸びを示しています。日本、欧州は0.4%程度ですから、米国の回復は早いですね。この経済回復を求めて、事業の軸を作っていく。それから、アジア地域は今後の素材事業の成否を握っていると言っても過言ではありません。この地域に対する取り組みを強化する。この2点ですね。

中国を中心としたアジア地域で、どのような成長戦略を描いていますか。

大八木 成男氏
大八木 成男氏

 当社の課題事業は、ポリエステル繊維、ポリエステル・フィルム、ポリカーボネート樹脂です。 それぞれの製品で市場環境が違っています。

 例えば、国内のポリエステル繊維は完璧な成熟産業です。さらに、国内で使われているポリエステル繊維の60%以上が中国からの輸入であり、国内企業はコスト競争力を完全に失っています。それなのに固定費は高いので、製造すればするほど赤字になる製品なのです。これは、日本の繊維メーカーが生産改革をしないで、高機能繊維やエコ製品にどんどん集約化して出口を狭くしてきた歴史の結果でもあります。