「当社は変化を好む。当然、それに伴うリスクを負うこともできる」――。「レスポール」や「フライングV」などのギターやベースを製造・販売する米ギブソンギターのチェアマン兼CEO(最高経営責任者)のヘンリー・ジャスキヴィッツ氏はこう強調する。同社のギターは世界中の著名なギタリストが利用していることでも有名だ。100年以上、楽器市場で競争を続ける同社に経営や情報システム活用の方針を聞いた。(聞き手は島田 優子=日経情報ストラテジー

写真●米ギブソンギターのチェアマン兼CEO(最高経営責任者)を務めるヘンリー・ジャスキヴィッツ氏
写真●米ギブソンギターのチェアマン兼CEO(最高経営責任者)を務めるヘンリー・ジャスキヴィッツ氏

ギターを中心にした楽器市場で成長を続けています。成長のための経営哲学はどのようなものですか。

 我々は公開企業ではないので詳細な数値は公表していませんが、楽器市場の伸びを上回って毎年、成長しています。「目標を掲げて達成する」という点を徹底していることが成長を維持している理由です。人々は目標を持たないと達成のための努力もしません。当社では目標を毎年見直して、社員自らが達成のために動くように促します。

 楽器は成長市場のため、特別の努力をしなくても売り上げを伸ばせます。ですが、市場成長分の伸びだけでは十分ではない。競争は戦争のようなものです。競合他社からシェアを奪うことが重要です。重視しているのは価格です。価格と顧客を考慮して狙う市場を定めます。そして集中的に、狙った市場を攻めていく戦略を採っています。

 当社の社風は、変化を恐れません。「現状のままでいたい」と思う人は変化を恐れます。ですが変化して改良しなければ成長はありません。変化には当然、リスクがつきまといます。リスクを負う準備はできています。

楽器市場の見通しは明るいのでしょうか。流行の音楽は目まぐるしく変わります。特に今は楽器ではなく、コンピュータを利用したテクノのような音楽が台頭しています。

 確かに今はヒップホップやテクノ音楽が好きな若者が多いですね。我々はテクノやヒップホップであっても、音楽が好きな若者は顧客だと考えています。テクノやヒップホップが好きな若者の音楽プレーヤーの中にもロックの曲が入っています。

 音楽の流行は非常に目まぐるしく変わります。日本では5年前に、公園でギターを弾くのがはやっていたのではないでしょうか。今はテクノやヒップホップがはやっているようですが、長期的にはギターを演奏する人口は減らないでしょう。

ギターやベースには多くのブランドがあり、製品数も相当な数になります。適正な在庫の保持や販売管理はどのように実施していますか。

 全社的に在庫管理担当者を置くのではなく、社内を小規模の部門に価格帯で分けて管理しています。米ゼネラルモーターズでも同様の取り組みをしている。これを参考にしました。

情報システムは活用していますか。

 最終的に意思決定をするのは人間ですが、IT(情報技術)もとても重要です。情報システムは意思決定に役立つ情報を生むものであって、情報収集の道具だと考えています。

 ITはとても重要なので自社で情報システムにかかわる人員を抱えています。自社で情報システムの人員を抱えるのは、情報システムを企画するためには自社の仕事内容を熟知している必要があるからです。技術はほかの企業が提供するものを使ったとしても、システムの企画は必ず自社の社員が担当するべきです。

 社内向けのシステムだけでなく、ウェブを通じた販売にも力を入れています。1980年代から始めたので、インターネットショッピングを始めた企業の中ではもっとも早いのではないかと自負しています。インターネットを利用すれば、多くの顧客にリーチできます。これを大きなメリットだと考えました。

 最近はブランド形成のために、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のようなソーシャルメディアの活用にも力を入れています。こちらはまだまだ、学ぶことが多いと考えています。