米ヴイエムウェアは現在、クラウドサービスの管理用API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)である「VMware vCloud API」の開発を進めている。同社のスティーブン・グロス氏(写真)は「APIを公開する目的は、健全なエコシステムを作るため」と語る。同社のプロダクト戦略などを聞いた。(聞き手は中田 敦=日経コンピュータ

写真●米ヴイエムウェア アジア太平洋地域プロダクトマーケティング担当 スティーブン・グロス氏
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ヴイエムウェアは現在、インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス(IaaS)で利用する仮想マシンなどを管理するためのAPI、「vCloud API」の開発を進めています。状況を教えてください。

 当社がAPIを公開するのは、力強く、健全なエコシステムを作るためです。VMwareブランドの各種ソフトがクラウドのプラットフォームとなり、vCloud APIという一つのAPIを使ってサードパーティーが、様々な製品を開発できるようになります。

 当社では既に、仮想マシンを管理するAPIや、管理ツールである「vCenter」と他社の管理ツールを連携させるAPIなどを公開しています。vCloud APIは、より高いレベルのAPIを提供し、クラウドインフラ全体の自動化や、プライベート/パブリックのクラウドの連携を実現します。2009年9月の段階で、米テレマーク(Terremark)などのサービスプロバイダが、vCloud APIの対応を表明しています。

米国では「vCloud Express」というIaaS事業者向けのプログラムが始まりました。同プログラムを使って、格安のインフラサービスを提供する事業者も現れています。

 vCloud Expressは、サービス事業者を「クラウドプロバイダ化」する第一歩です。もちろんこれだけにとどまりません。我々が目指しているのは、拡張性です。いま、クラウドプロバイダが運用しているサーバーの規模は、もしかしたら1000台程度かもしれません。これを何百倍にもできるソリューションをプロバイダに提供していく考えです。

 また、現在のクラウドサービスは、単なるアプリケーションホスティングかもしれません。その領域を拡張したいとも考えています。プロバイダが、BCP(事業継続計画)を実現するサービスや、災害復旧対策(ディザスタリカバリ)を実現するサービスを提供できるようにするのも、ヴイエムウェアの役割です。

ヴイエムウェアは、サービスプロバイダに対して技術を提供する「イネーブラ(enabler)」に徹するということですが、最近買収した「SpringSource」(Javaのアプリケーションフレームワーク)や「Zimbra」(メールのSaaS:ソフトウエア・アズ・ア・サービス)に関してもそうなのですか?

 我々は今、IaaSの基盤ソフトを提供していますが、SpringSourceによってPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)の基盤ソフトも提供できるようになりました。PaaSを社内でも社外でも利用できるようにするのが、ヴイエムウェアの役割です。Zimbraに関しては、買収が決まったばかりで詳細は言えませんが、ヴイエムウェアの方針(ソフトをサービスプロバイダや企業顧客に販売するという方針)が変わることはないでしょう。

 我々は、仮想化のイネーブラになることで、ビジネスを成功させてきました。仮想化を取り囲むエコシステムがあることが、我々にとって重要だと認識しています。私たちが決めたインフラでお客さんにサービスを提供するのではなく、お客さんがインフラを選択できるようにすることを重視しています。

仮想化ソフトを動かすハードウエアは、今後どう変わっていくと思いますか?

 ヴイエムウェアとして特定の考えは持っていないので、個人的な意見を述べたいと思います。仮想化の初期のころにブレードサーバーが流行したのは、当時はプロセッサの処理能力が不足していたので、利用者が「サーバー密度」を求めたからでした。

 今は、一つのプロセッサの中に4つの物理コアが実装され、間もなく6コア、8コアになろうとしています。4ソケットのサーバーがあれば、1サーバーで32コアが実現します。プロセッサの処理能力は十分になりましたが、今度はメモリー帯域やメモリー容量、ストレージI/Oが足りなくなってきました。

 メモリーが足りないことが問題になると、「ESX Server」が初期から実装する「メモリーディデュープ(メモリー重複排除)」や、「メモリーオーバーコミット」が重要になってくるでしょう。

 メモリー重複排除とは、仮想マシン間で重複するメモリーをまとめてしまう技術です。2Gバイトのメモリーを搭載する仮想マシンが2個あったら、本来は物理メモリーが4Gバイト必要になります。ところがメモリー重複排除を使用すれば、もっと少ない物理メモリーで仮想マシンを運用できます。

 メモリーオーバーコミットは、物理メモリーが搭載する容量よりも多くの仮想メモリーを、仮想マシンに割り当てる技術です。これらメモリー技術がより注目されるようになるでしょう。